焦りがないわけがない。2009年ドラフト1位・
巽真悟は来年1月で27歳になる。来季6年目。これまで14試合に登板したものの、初勝利は遠い。崖っぷちに追い込まれたかつて即戦力とうたわれた右腕は、秋の宮崎で新たな挑戦を始めていた。「これまではカーブを曲げようと意識し過ぎ、日によって波がはっきりしていた」と振り返る。安定して緩急を使えないままでは一軍で結果を残すことは難しかった。
新たに挑戦するのはそのカーブだ。きっかけは秋山監督のひと言。「カーブを投げてみろよ。一生懸命に投げずに相手をおちょくるようなつもりで投げればいいんだ。指先に力を入れると手首が硬くなって、良い球がいかない」とアドバイスされた。
もともと器用なタイプでカーブ、スライダー、カットボール、
シュート、フォーク、チェンジアップと多彩な変化球を操る。だが、手先で操れることで、体全体で投げることがおろそかになっていた。ワラをもつかむ思いは行動にも表れる。カーブといえば同期入団の攝津。巽はその門をたたいた。「攝津さんはカーブを投げるとき、握るとか持つではなく、触っている感覚と言っていました」。指先は固定させたまま、腕の振りを安定させる。通算55勝を挙げ、昨季は沢村賞にも輝いた右腕と秋山監督の言葉がシンクロしたことで、自分自身の目指す場所は定まった。
「これからキャッチボールでもなじませていきたい。目指すのは初勝利、開幕ローテーションです」
日本一奪回へ向け、球団は史上空前の大補強に着手している。ただ、外様だけではない。くすぶり続けた才能が、実りの秋を迎え、輝く瞬間を迎えようとしている。