秋が来れば鉄腕と呼ばれた男が不惑を迎える。
岩瀬仁紀の今季初セーブは4月6日の
巨人戦(ナゴヤドーム)だった。
「やっとスタートしたという感じですね。こういう競った試合が増えてくるだろうし、それを1つずつ取っていかなきゃ上には行けないからね」
クローザーというのは、仕事する機会を自分ではつくれない。開幕から黒星と大勝が多かった谷繁竜は、開幕10試合を終えてもセーブシチュエーションが整ったのはこの試合しかなかった。
仲間から渡されたバトンだからこそ、自分が落とすわけにはいかない。リリーフ一筋16年。その思いでやってきた。「終わってからこれくらいまでいったんだと振り返ればいいだけ」と、関心を示そうとしない通算記録は、すでにあらゆる頂点を極めた。次は前人未踏の400セーブまであと「17」に迫っている。
岩瀬のすごさは体の強さにある。優秀なリリーバーは過去にもいたが、入団以来、15年すべて50試合以上投げ続けているのは称賛を通り越して驚異の域だ。
山本昌と同じ鳥取市の「ワールドウイング」に若手のころから通い、筋肉や関節の使い方を学んできた。技術面の探求心も旺盛だ。岩瀬が新球に挑戦するのは毎年のこと。すぐにではなくとも、いつかその引き出しが自分を救う。先を見越した取り組みなのだ。今季はカットボールに挑み、実戦でも使えるほどの相性の良さを見せている。
「この年になれば、ダメならあとはない。厳しいのは承知の上ですよ」。いくつもの山と谷を乗り越えてきた岩瀬らしい言葉。希代のクローザーは、まさしく不惑の境地に差しかかっている。