球界を代表する足のスペシャリストがいる。
鈴木尚広は終盤の勝負どころで代走で出場し、局面を打開。ペナントレースを争うライバル、
阪神との直接対決でもその俊足で白星を呼び込んだ。
まず7月23日の甲子園での一戦。2対2の9回だった。無死一塁から代走で出場し、一死後にまず二盗を決めた。タイミングは微妙だったが、ベース手前でもスピードが落ちない鋭いスライディングでセーフの判定をもぎ取り、「スライディング技術が上回った」と胸を張った。さらに、捕手がわずかにボールをこぼしたところを見逃さずに、暴投で三塁にも進む。2四球などで二死満塁となり、最後も暴投で決勝のホームを踏んだ。
じわりじわりと相手を追い込んでしびれる接戦を制し、「相手にプレッシャーを掛けられた」と喜んだ。
8月14日の東京ドームでの一戦でも、その足が大きな1点を生んだ。2対1の8回一死二、三塁だった。代走で出場した三塁走者の鈴木尚は、3ボール1ストライクから筒井が投じた低めのボールがバウンドしたところでスタートを切る。際どいクロスプレーとなったが、本塁ベースカバーに入った筒井のタッチをくぐり抜けるようにスライディングした。「最初から低く行った」と鈴木尚。ベースの横を滑り込みながら、左手でホームを触った。「アウトになることは考えていなかった」と迷いは一切なかったという。
試合前、試合中の余念のない準備に始まり、冷静かつ思い切った状況判断、高いスライディング技術、そして、年齢を重ねても衰えることのないスピード。代走の切り札は「これが僕の役割」とお立ち台で快心の笑顔を見せた。