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福井優也投手・乗り越えなければならない悲しみ

 



 あふれ出す涙を堪え切れなかった。9月4日の巨人戦に先発した福井優也は6回1失点と好投しながら、白星を手にできなかった。済美高の恩師である上甲正典監督が2日前に亡くなり、この日は松山市内で葬儀・告別式が営まれていた。「今日は勝ちたかったです。負けたら意味がないので……」。右手で目頭を拭ったが、気持ちのこもった投球だった。

 1年目の11年に8勝した右腕も、昨季はまさかの未勝利。今季初先発した5月7日のヤクルト戦は5回6失点で即、二軍降格した。

 もう後がない状況だった。今季2度目の先発マウンドとなった7月27日の阪神戦で9回1失点で完投し、12年8月4日、阪神戦以来の白星をゲット。完投はルーキー時代の11年10月12日の横浜戦以来、3シーズンぶりだった。「オヤジが死んでから勝っていなかったから、勝ちたかった……」。昨秋、父・俊治さん(享年54)が急死していた。約2年ぶりの白星には特別な思いが込められていた。

 潜在能力の高さは誰もが認めるところだ。140キロ台後半の直球は重さ、キレ味ともに抜群。スライダー、チェンジアップ、フォークといった変化球も一級品。長らくメンタル面が課題に挙げられていた。「僕の場合、慎重になってもいいことはない。ピンチでどれだけ腕を振れるかが課題ですから」。大胆な姿勢を貫けば、必ず結果がついてくる逸材だ。

 今季初勝利を挙げてからも8月3日の巨人戦で7回2失点、同10日の阪神戦は5回3失点で3連勝。投手事情が苦しい夏場、首位を争う2チームを相手に結果を出した。3勝目以降は勝ち星から遠ざかるが、先発ローテの座を守る。殻を破りつつあるようだ。
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