赤松真人はスペシャリストの領域にいる。緒方監督は試合の終盤、代走・赤松のカードを切るタイミングを探る。「赤松で勝つ試合は何試合もある」。指揮官がそのカードを切ると、カープファンからは大歓声が上がる。塁上で1歩、2歩とリードを取ると、スタンドからは「走れ、走れ、赤松」の
コール。相手バッテリーはけん制を何度もはさみ、警戒する。それでも、タイミングを計ると赤松は盗塁に成功する。分かっていても、警戒していても刺せない。その次元の走力である。
6月20日、横浜スタジアムに乗り込んでの
DeNA戦だった。7回に代走で出場すると、バッテリーの警戒をかいくぐり、3球目にスタート。悠々セーフで流れを呼び込んだ。遅ればせながらの今季初盗塁に「僕としては走るのが仕事なので、1個目ができてとりあえずよかった」と笑顔が出た。圧倒的なスピードと「立ちスラ」と呼ばれるスピードの落ちないスライディング。緒方カープにとって確かな武器になっている。
ただ赤松はすぐに反省を口にする。「もっと浅いカウントでも走れたし、もっと余裕で走れたはず」。盗塁は足の速さではない、が持論。とはいえ、相手投手もクセは少なくなり、クイックのタイムも格段に向上。簡単ではないながらも走り屋としてのプライドがある。6回以降、いつ来るか分からない出番に向けて準備が始まる。スイッチを切ったり、入れたり。ベンチ裏では反応速度を上げるため、瞬発系の動きを繰り返す。ベンチに座れば、相手投手のクセを見抜こうと目を皿にする。出番が得点に、勝利に直結するわけではない。だが、その存在だけで、与える安心感はあまりに大きい。