週刊ベースボールONLINE

オーロラビジョン

小窪哲也内野手・類まれな勝負強さが招いたジレンマ

 



 決定打不足に泣いたチーム状況からは一人、別次元にいた。小窪哲也は今季69試合に出場し、打率.296、15打点をマークした。代打起用時に限れば50打数19安打で、打率は. 380、15打点にまでなる。9月9日の中日戦(マツダ広島)では土壇場の9回二死二塁から中前へ同点二塁打。その勝負強さは、まさしく陰のMVPだろう。

 開幕こそ二軍スタートだったが、すぐにチームになくてはならない存在になっていった。人並み外れた結果を出しながら、いつも「特別なことはしていない。打てる理由は自分でも分からない」と謙虚に振り返るのが小窪らしかった。

 だが一方で、代打で結果を出すほどスタメンが遠のくジレンマにも悩まされた。誰もが代打で残せる結果ではない。特殊能力がゆえ、ベンチに置いておきたい人材になった。少ないスタメンのチャンスで結果を残せないと「最初から出ると打たない」とレッテルを貼られた。打てば打つほど遠のくスタメン。30歳の年齢で代打家業に専念するのは早過ぎた。だからこそ今オフはもう1度、レギュラーに照準を合わせている。

 迷いもすべてかなぐり捨てた。今季途中に取得したFA権は熟考の末、行使せずに残留することを選んだ。球団も早くから残留要請を出し、小窪も基本線としていた残留に支障が出ることはなかった。緒方監督の「必要な戦力」の引き留めも効いた。貴重なスペシャリストは来季も広島のユニフォームでグラウンドに立つ。「考えたけど、広島を出る理由がなかった。プロの世界に入れてもらえたわけだし、広島で優勝したい」。人望も厚く、中堅世代のリーダー的存在としても期待がかかる。目指す先はただ1つだけだ。
オーロラビジョン

オーロラビジョン

週刊ベースボール各球団担当による、選手にまつわる読み物。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング