天谷宗一郎は背水の覚悟でキャンプに挑んできた。かつて期待の若コイだった男もプロ15年目。今年で33歳になる。もう1度、スタメン争いへ。必死にアピールを続け「左の代打」候補からレギュラー争いにまで顔を出してきた。
覚悟の一撃は2月28日。キャンプの最終日に組まれた練習試合、
日本ハム戦(コザしんきん)で飛び出した。6回一死で日本ハム
武田勝から右翼ポール際へ豪快弾。内角の120キロに、器用に回転して対応。ファウルにさせない技術の高さが際立った1発だった。ボールは外野スタンドにポトリ。場内の大歓声を浴びながら表情を変えずダイヤモンドを回った。
試合後も表情は変わらない。アピールになったのでは、と問われても「そうなっていればいいですね」と一言。実戦で結果を残し続けていても、慢心はない。かつては「明日の
広島を担う」とまで言われた男だった。
だが安定した成績を残すことはできず、年々期待も薄れていく。昨季は代打や守備固めでの出場が大半だった。高いポテンシャルに技術が追いついたのは「昨年の秋からですかね」と言う。打撃に手応えを感じ、今春のキャンプでも初日から好感触を持っていた。コーチ陣も、真っ先に天谷の名前を挙げていた。
2月中旬、宮崎で行われた
オリックス戦(清武SOKKEN)では持ち前の俊足を生かし、守備でも「完璧」と自画自賛するダイビングキャッチを決めた。外野手は空席の右翼に野間、松山、土生、ケガで離脱した鈴木らがひしめき合う。
「ずっといいものを見せてくれている。レギュラー争いに入っている」と緒方監督。覚醒は本物か。「スキを見せずにやりたい」本人が最も分かっている。