いつ訪れるとも知れない出番を予測し、最善の準備をして待つ。そして大勝負をする。ベテラン・
矢野謙次。独特のオーラを漂わせて打席へ向かうその姿にスタンドは沸き上がる。登場するだけで雰囲気を一変させてしまう存在感。優勝争いを展開するチームの中で、唯一無二の代打の切り札の称号を持つ職人だ。表情1つ変えることなく、相手投手とたった1打席のバトルを繰り返し、ジョーカーとして重用する栗山監督も「さすが、ケンジ」とうなる仕事を連発する。
昨季途中に
巨人から交換トレードで移籍。新天地でも変わらぬ役割を務めている。今季は古傷の右ヒザのコンディション不良で、開幕から出遅れ、一軍に合流できたのは5月下旬だった。そのときもまだ万全ではなかったが、栗山監督の強い希望で戦列へと戻った。交流戦を控え、矢野の力を求めた。全力疾走はできない状態だったが「打つほうは二軍でやってきた」と受け入れ、見切り発車した。
昇格直後の6月15日の
DeNA戦(横浜)では0対0の9回に代打で勝ち越し2ラン。直後に同点とされたが、延長10回に中田の決勝弾が生まれた。7月30日の
ソフトバンク戦(札幌ドーム)ではサヨナラ押し出し死球など、今季も数々のドラマを演出してきた。値千金の働きをしても控えめな「チームが勝って良かった」のコメントの一点張りのいぶし銀だ。シーズン最終盤も熟練のバットマンに勝負の分岐点を託す。