中日が前評判をくつがえす戦いをやっている。開幕シリーズ(京セラドーム)で
阪神に3タテを食らったときは「やっぱり」とドラファンは、落胆したことだろうが、どっこい、しぶとい戦いを続け、4月半ばには3連続サヨナラ勝ち(プロ野球タイ記録)するなど、落胆どころか狂喜させる戦いだ。
これを一番喜んでいるのは、OBの
杉下茂さんだろう。最下位の評価ばかりの古巣に「てやんでえ、ベラボウめ。オレが強くしてやろうじゃねえか」と江戸弁でタンカを切ったかどうかは知らないが、89歳の高齢にもかかわらずキャンプでは臨時コーチを務めて後輩たちに活を入れた。
江戸っ子の杉下さん、その性格は実にサッパリしたもので、だれにでも好感を持たれるのだが、そのピッチングは、豪快かつ繊細で、打者にはイヤがられる投手だった。
好敵手だった
金田正一さん(元国鉄、
巨人)は「杉下さんは、フォークボールのことばかり言われるけど、あの人の一番すごいのは、ストレートのスピード。ものすごく速かった。杉下さんは、上半身の力が恐ろしく強い人で、オレなんかとても及ばない。でも、下半身が、やや弱かった。それで、あまり長くやれなかった。オレは杉下さんと反対で下半身に粘りがあって強かった。投手はこっちの方が長持ちする。でもまあ、杉下さんの剛球は本当にすごかった」と昨年筆者に語ってくれた。
写真は、中日が初めて日本一となった54年の、対西鉄日本シリーズ第1戦(中日球場)での杉下さん。そのキャリアのピークの年だが、毎度不鮮明で申し訳ないのだが、なるほど上半身の力で強引にねじ込む感じである。杉下さんは、この試合、5対1での完投勝利。フォークは1回に数球使っただけ。それでもシリーズ最多記録の12奪三振。それは、この剛球で奪ったものだった。