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キャンプインは、プロ野球選手にとっておめでたくもあり、プレッシャーでもある日。この写真のミスターだって例外ではない

 

文=大内隆雄



 今週号は2月1日号。日付ではもうキャンプインの日だ。巨人王貞治内野手は、キャンプイン前日、「今年はホームランが1本も打てないのではないか」と不安になったという。また、豊田泰光氏(元西鉄ほか)は引退後数年は、キャンプ前日、「明日からキャンプなのに、オレは何もやってない!」という夢を必ず見たそうだ。夢から覚めると「ああ、オレはもうキャンプに行かなくていいんだ」とホッとしたという。

 キャンプインは、プロ野球選手のお正月だとはよく言われるが、おめでたい日でもあり、恐ろしいプレッシャーでがんじがらめにされる日でもあるのだ。

 さて、この写真の人はどうだっただろうか。この人だけはノープレッシャーで「ハ〜イ、キャンプさん、いらっしゃ〜い」とかなんとか、鼻歌まじりで宮崎空港に降り立ったのではないか。

 天下無敵で、首位打者、本塁打王を獲得、初のMVPに輝いた1961年(巨人入団4年目)あたりは、そんな感じだっただろうが、この写真のころは、ちょっと違っていたかもしれない。最晩年の73年の宮崎キャンプでの1枚。

 宮崎県営球場の名物となっていたのが、内堀保さん(元巨人捕手)がONに浴びせる猛ノック。特に長嶋との「下手クソ!」「そっちこそ、ちゃんと打て!」のやり取りの面白さは、スタンドのファンを大喜びさせた。内堀さんはスカウトだったのだが、当時の川上哲治監督がノッカーを依頼。その技術の高さを知っていたからだ。「正面の打球が実は野手にとって一番難しい。そこへ難球を打ってやれば上達する」が内堀さんの“ノック哲学”。ONもその難球でしぼられた。

 この1枚、打球は、三塁線ギリギリのところで止まっている。どういうノックの打球だったのだろうか。それほどの難球ではなかっただろう。長嶋はグラブの届かなかった打球をうらめしそうに見ている(想像ですが)。「オレも落ちたな……」。その背中がつぶやいていた。
おんりい・いえすたでい

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過去の写真から野球の歴史を振り返る読み物。

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