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足を上げるべきか、足を上げざるべきか、それが問題だ――。西本聖は杉下茂コーチの「上げるな!」の指導で大成することに

 

文=大内隆雄


 先日、“元祖フォークボーラー”の杉下茂さん(元中日ほか)に久しぶりにお会いしたが、印象に残る「ナルホド!」話があった。それは「足を高く上げる投手はダメ」だった。「どうしてですか?」と問うと、「君、ケンカするとき、どういうポーズを取る?1本足で立つかい?2本足だろう。そうでなければ、相手に簡単に倒されちゃうだろう」。それは、分かります。でも、それが投手のフォームに直結するかなあ……。「過去の大投手は、フリーフットを高く上げずにスッと踏み出したものだ。カネ(金田正一投手=国鉄ほか)もべーやん(別所毅彦投手=巨人ほか)も、み〜んなそうだ。まあ、僕も足をスッと出す投手だったね」と杉下さん。

 お言葉ですが、あの巨人の初代エース、沢村栄治投手は、左足を頭より高く上げたじゃないですか、と言いかけて、言葉を飲み込んだ。NHKが発見した、あの有名な1936年の、巨人-タイガース(阪神)の“洲崎決戦”のフィルム映像を思い出したからだ。第3戦(12月11日)の巨人日本一決定のシーン、沢村は左足をほとんど上げていないのだ。スリ足のような感じで出して、下半身の粘りと強引とも言える上半身をかぶせる動作でボールをねじ込んでいる。

 戦前の「野球界」のカメラ記者で、沢村の写真をかなり撮っている関三穂さん(故人)が、こんなことを言っていた。「沢村の、あのポーズは、ほとんどこっちの要求なんだ。試合では、あまり見せなかったね」。

 となると、杉下さんの話には「ナルホド!」とうなずくべきなのだろう。243勝もした、左足を高々と上げるJ.マリシャル(元ジャイアンツほか)のような投手もいたが、例外はどこにでもあるし……。

 写真は75年の多摩川秋季練習での巨人・西本聖投手(ルーキーだった)。この秋季練習から杉下さんは巨人投手コーチとして指導したのだが「沢村さんのようにとか言ってたけど、僕はやめさせたんだ。西本がよくなったのは、これをやめてからだよ」。さすがにこれでは誰でもやめさせたくなりマス。
おんりい・いえすたでい

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過去の写真から野球の歴史を振り返る読み物。

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