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野球写真コラム

吉田羊の人気の秘密はその「懐かしい顔」にあるのでは?プロ野球の「懐かしい顔」と言えば、武宮敏明。ああ、懐かしの鬼寮長――。

 

文=大内隆雄


 どこかで見かけたハズなのだが、どうしても思い出せない顔というのがある。いま、ドラマやCMに出まくっている吉田羊という女優の顔がそうだ。原田知世?ちょっと違うなあ。大地真央?これも違うなあ。どうしても思い出せないのだが、アレコレ想起しているうちに、「この人、なんだか懐かしい顔をしてる」という気持ちになってきた。格別美形というワケでもないのに圧倒的な人気を集める理由は、どうもこのへんにありそうだ。人間の心の動きの中で、懐かしさというのは、最も安らぎを与えてくれるものである。懐かしさの感情を拒否する人間はまずいない。で、吉田羊の顔と声が日本中にバラまかれることになった。

 吉田は九州の出身だそうだが、九州出身のプロ野球選手で、この「懐かしい顔」を持った人がいる。それは、この人、元巨人捕手、合宿の寮長だった武宮敏明さんだ(59年)。どうでしょう。昔の田舎にはこんな顔の人が必ずいた。熊本工では川上哲治のボールを受けたこともあるが、川上の1年下だったことで、川上と同級の吉原正喜捕手を抜くことはできなかった。しかし、武宮さんは、この吉原と一番仲がよかった。入営した部隊が一緒で、吉原が軍からの支給品をなくしたときは、員数をつけてやったことも(軍隊内では、たとえば飯盒のフタをなくせば、古参の兵隊にイヤというほどブン殴られる。武宮さんは吉原がなくしたものを何とか調達してやった。それを「員数をつける」と言う。これは、大変な危険を犯す行為)。吉原は“戦没球徒”だが、武宮さんは吉原の戦死の話になると涙ぐんだ。

 涙ぐむと言えば、堀内恒夫元巨人監督の話になったときもそうだった。合宿時代、散々手を焼かせた堀内投手だが(武宮さんは門限破りに激怒、竹刀で血が出るほどたたきまくったこともある)、実はかわいくてかわいくて仕方がなかったのだ。「堀内はな、巨人の監督をやる男じゃ。ワシは確信しとる」と言って涙ぐんだときは、「いい人だなあ」と感動してしまった。堀内投手は期待どおり監督となった。元巨人選手には合宿は第二の故郷。長年その寮長だったのだから、武宮さんはやはり「懐かしい顔」なのである。
おんりい・いえすたでい

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過去の写真から野球の歴史を振り返る読み物。

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