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【高校 High School】

東京国体高校野球
延岡学園高の前エース・上米良
仲間と過ごした濃密の126分


将来を見据えた勇気ある決断

 東京国体(八王子市民球場)が開幕した9月29日、第1試合に今夏の甲子園準優勝の延岡学園高(宮崎)が登場。同4強の日大山形高に1対15と大敗した中で、特別な思いでグラウンドに立った前エースがいた。

 14点ビハインドの9回裏。一死から梶原翔斗が四球で出塁すると、一塁ベンチから背番号16が代走に出てきた。次打者が初球を打って投ゴロ併殺。二塁ベースにスライディングした上米良有汰(かんめら・ゆうた)の出場は1分にも満たなかったが、最後は笑顔で高校野球を終えた。

「最後、監督が『どうにか使ってあげよう』ということで、出させてもらった。ベンチに入ってプレーできたのも、仲間が甲子園で頑張ってくれたおかげなので、感謝しています」

▲1対15の9回裏無死一塁。代走で起用された延岡学園高・上米良だったが、次打者が初球を打って投ゴロ併殺。出場は1分にも満たなかったがこの笑顔だ[写真=田中慎一郎]



 2年春から背番号1を着けた上米良は、スクリューが武器の最速132キロ左腕だ。5月のゴールデンウイーク中は絶好調。その後も週末のたびに完投するも、6月の合宿で左ヒジに違和感を覚える。単なる疲れと思い込んでいたが、7月上旬、宮崎県大会の開幕1週間前に悲鳴を上げる。「抜けるような感覚。ポキッと音がしました」。左ヒジの疲労骨折だった。最後の夏は絶望となったが、上米良は努めて明るく振る舞ったという。

「自分がいなくなることですでにチームに迷惑をかけているのに、落ち込んだ姿を見せれば、さらに雰囲気を悪くする。立ち止まっていては、自分のためにもなりませんから」

 悔しさは押し殺し、ノックの手伝いや、球拾いなど献身的に動いた。エースの突然の離脱により、危機感が芽生えたのが控え投手3人だった。左腕・横瀬貴広、右腕・奈須怜斗、2年生サイド右腕・井手一郎がそれぞれ持ち味を発揮。宮崎県勢初の準優勝の背景には「上米良をもう一度マウンドへ」という合言葉も、チームの原動力としてあった。夏の甲子園8強以上が一つの目安となる「国体出場」を目標にしてきたのだ。

 甲子園大会期間中にギプスが取れ、宮崎へ戻った後は、急ピッチで調整を進めた。1週間後にキャッチボール再開、さらに1週間後にはブルペン入り。「投げられることが楽しくて、張り切り過ぎてしまった(苦笑)」。国体1週間前に投球練習をしたものの、10球で中断。調子は戻らなかったが、重本浩司監督は「1イニングでも、一人でも」と可能性を信じ、ベンチ入り16人の最後の背番号を託した。日大山形高との1回戦は7回にブルペン入りするも、軽いキャッチボールで終了。

「無理です」。勇気ある決断だった。「1人なら大丈夫だったかもしれないが、ここで野球人生を終えるわけにはいかない」。代走ではこの試合、最大の歓声に包まれた。上米良は卒業後、福岡の強豪大学で野球を続ける。仲間が立たせてくれた2時間6分の高校ラストゲームは、今後の人生においてかけがえのない財産となる。
(取材・文=岡本朋祐)
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