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センバツ選考委員会「1.29」を待つ球児

 

達成感を求めて沖縄から滋賀で成長する肝っ玉エース


 昨秋の近畿大会、すい星の如く現れた下級生エースの前に、強打者たちのバットから快音が消えた。滋賀学園高は県大会3位通過ながら近畿大会準優勝。その原動力となったのが全試合で完投した神村月光(1年)だ。打者を圧倒する球威に加えて安定したコントロール、どんな相手にもインコースを突く度胸を武器に強豪をねじ伏せ、4試合39イニングで5失点。小柄だが体力面に不安はなく、14回を投げ抜いた報徳学園高との準々決勝では、延長でさらに球威が増したというから驚きだ。

北谷ボーイズ時代から注目されていた神村。月光は「ひかり」と読む。実力を磨き甲子園を目指すため、沖縄から滋賀の高校を選んだ。4月で2年生となる右腕は来秋のドラフト候補にも浮上しそうだ[写真=太田裕史]



 中学時代から評判の投手の元には当然いくつもの誘いがあったが「甲子園常連の高校に行っても出られて当たり前なので、それよりはベスト4やベスト8の高校へ行って、自分たちで力を上げて甲子園行ったほうが達成感もあって、やりがいのある3年間になるかなと思いました」と故郷の沖縄から約1700キロ離れた滋賀学園高へ。練習量の違いや親元を離れての寮生活など、環境の変化に不安を感じることもあったが、チームメートの励ましに支えられメキメキと成長。夏の関東遠征で初めて9回を1人で投げ切り、1失点。うなりを上げるストレートは昨秋の時点で最速144キロを計測している。

 それから2カ月後、地元開催となった近畿大会でも抜群のピッチングを披露し、センバツ初出場を有力とした。山口達也監督も「『ここは直せ、ここは伸ばせ』と言うとそれを受け入れる素直さがあって、ピッチングでもなぜ失敗したか説明すると同じ失敗はしない。1年生としては100点満点」と最高評価を与え期待している。だからこそ「後は上級生になるにつれてエースとしての立ち居振る舞いや人間力。チームの中でも世間的にもやっぱりエースだな、というところを見せてほしい」と投げる以外の部分でも高いレベルを要求する。そんな指揮官の指導を守り、本来は投げたがりの性格だが、11月上旬の近畿大会後はしばらくノースロー調整を続けた。1カ月ぶりに投げ込んだブルペンでは、ノビもキレも増し手応え十分。捕手の後藤克基(1年)が「近畿大会のときより速くなっている」と言うように、威力満点の真っすぐにはさらに磨きがかかっている。

大阪桐蔭高とのリベンジマッチを熱望


 センバツ出場が実現すれば、近畿決勝で4安打に抑えながらも敗れた大阪桐蔭高の再戦を熱望する。特に唯一、2安打を許した三番・主将の吉澤一翔(2年)には、2ストライクから際どいコースに投げ込んだスライダーを見極められ、インハイにストレート、インローへタテスラを決めても狙い澄ましたかのようなスイングで打ち返された。同地区であるから、秋のリベンジを果たすには、早々に負けるわけにはいかない。冬場の練習ではスタミナと下半身の強化、そして球速アップに重点を置く。「やることは変えずにキャッチャーを信頼して、全国の誰が見ても堂々としているな、と思われるピッチングを披露したいです」。甲子園に吹く3月の冷たい風は気合のこもった熱投で吹き飛ばす。そのとき、聖地のマウンドに立った身長170センチのシルエットは、誰より大きく見えるはずだ。(取材・文=小中翔太)
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