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Professional Report 2013〜元巨人チーフスカウト発[中村和久]〜

東明大貴[富士重工業]

 

社会人でも素材型
大化けの予感が漂う未完の速球派右腕


7月23日まで東京ドームで開催された都市対抗から、まずは東明大貴(富士重工業)を取り上げたい。社会人でありながら、将来性を大いに感じさせる右腕。トータルで上積みがあれば、プロでも相当な活躍が見込める投手である。

【投球フォーム=9.0点】
 社会人イコール即戦力という見方をされる場合が多いが、東明の場合はそれとは一線を画す素材型で、これからの成長が十分に見込める選手と分類されるだろう。まだまだ改善の余地があるということだ。この投手の最大の魅力は右腕が強く振れ、力のあるストレートが投げられるところである。しかしながら、まだトップの位置と左足の着地が合っていない。上半身と下半身の連動が今ひとつで、その力を最大限に発揮できていないという印象だ。また、テークバックで右肩が深く入る点をどう解釈するか。握りが見やすくなるため修正すべきという見方もあるかもしれないが、私個人の意見としては長所として生かしてもらいたい。

【ストレート=9.5点】
 最速は153キロで社会人NO.1の威力を兼ね備えている。ただ、球の伸びに欠け、角度ももう一つという印象がある。裏を返せば、まだまだ伸びしろが十分にあるということ。投球フォームさえしっかりと定まってくれば、さらにストレートの球速は上がるはずだ。この投手の最大の武器とも言えるストレートの質をさらに上げてもらいたい。


【変化球=9.0点】
 球種はカーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークだが、特に目を引くのはカーブとスライダー。中でも右打者の外角低めに決まる球は一級品である。腕のしなりを利かせて投げる変化球が、武器であるストレートをさらに引き立てている。下半身との連動がうまくいけば、そのキレはさらに増していきそうだ。

【投球術=8.5点】
 現状ではまだ“組み立ての妙”と表現できるピッチングはできていない。外角低めの球を有効に使うために内角に差し込むストレートを使うなど、配球の工夫も必要になってくるだろう。これは今後、実戦でいろいろな打者と対戦していく中で勉強していくしかない。

【制球力=8.5点】
 ストレートやスライダーなどが自在にコントロールできているわけではない。また、カウントを整えるような計算もできない。今は力で押していくスタイルを貫いているようだ。ただ、これは下半身が使えていない現状でのこと。フォームさえ定まってくれば、すべてが良い方向へ向くはずだ。基本的な体の使い方をおさらいしながら、制球力アップへとつなげていきたい。

【守備力=9.0点】
 クイックは1.28〜29秒と、十分なタイムを出している。しかし有走者時にはまだ余裕が感じられない。投げ急いだり、投球のテンポを崩さないでほしい。これによってバランスの悪いフォームになってしまうからだ。

【メンタル=9.0点】
 責任感や集中力は社会人選手にあるべきものを備えているが、課題はそれを持続できるかというところにある。マウンド上の表情を見ている限り、まだ余裕がない。常に打者に冷静に向かっていく姿勢を見せてもらいたい。富田高時代は大舞台を味わっておらず、桐蔭横浜大、富士重工業で全国の舞台を経験した発展途上の投手。それらがメンタル面に厚みをもたらしている。

【体力=9.0点】
 今年の都市対抗1回戦のJR東海戦では先発して1失点に抑えたものの、6回からボールが抜け出し、結局この回限りで降板となった。まだまだ先発完投、連投できるスタミナは足りないということだろう。ただ、球自体には十分に威力があり、短いイニング、つまりセットアッパーや抑えに適性があると言えそうだ。

【将来性=9.5点】
 高校生ではないが、将来性を「9.5点」とした。素材だけを見れば社会人屈指であることは間違いない。「速いボール=自分の長所」という事実があるのだから、その能力を信じて、基本的なフォームから徹底的に見つめ直すべきである。そのあたりを焦ることなく練り直しながら、プロの世界へ飛び込んでほしい。その将来性は誰もが認めるところ。プロ入りしてからも「即戦力」という言葉に惑わされることなく、じっくりと自分を作り上げたい。

【総合力=9.0点】
 指に掛かれば150キロ超のストレートをたたき出すことができる。自信のあるボールでは確実に三振が奪えるセットアッパー候補である。上体が強いだけに、肩に負担のかからぬ投球フォームを見つけてほしい。時間がかかるが好素材、スカウトのチェックリストから最後まで外せないタイプと呼べそうだ。スカウト陣から「満票1位」とはいかないまでも、注釈付きの1位候補と言えるか。投げる能力は十分に感じさせる選手だが、それを試合ですべて発揮できているわけではない。すでにプロのスカウトからの評判は上々のようだが、まだ秋までには十分に時間が残されている。この期間にしっかりとした取り組みができれば、さらに高い評価を得られるはずだ。

東明大貴の三大長所
速球 - 指に掛かった球は一級品
腕のしなり - 肩関節の柔らかさあり
伸びしろ - 課題克服で大化けも

PROFILE
とうめい・だいき●1989年6月15日生まれ。岐阜県出身。富田高では下級生から主戦も夏はいずれも初戦敗退。桐蔭横浜大では1年秋よりエースとなり、2年春はリーグ初優勝に導く。3年春も大学選手権に出場し、2度目のMVPに輝いた4年秋は神宮大会初出場。神奈川リーグ通算52試合登板、30勝11敗、防御率1.86。卒業後富士重工に入社し、1年目春から中心投手に。都市対抗で初戦突破に貢献。2年目の今年は日立製作所の補強選手として都市対抗に出場し、2回戦進出。178センチ78キロ。右投右打。球種はカーブ、スライダー、チェンジアップ、フォーク。

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