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名脇役・加藤武さんが亡くなって思うこと
「そう言えば、プロ野球から名脇役が消えてしまったなあ」
律儀にバントだけではつまらない

 

「よ〜し、分かった!」のまるで決まらない決めゼリフ(?)で人気のあった、俳優の加藤武さんが亡くなった。名脇役とは、加藤さんのためにあるような表現だが、加藤さんの周囲には、名脇役たちがいっぱい、いた。旧制麻布中(現麻布高)や早稲田大時代の演劇仲間である。小沢昭一、フランキー堺、仲谷昇、北村和夫……。みんな鬼籍に入ってしまったが、この人たちの“主役的脇役”としての名演技がなければ、1950〜60年代の日本映画は、およそつまらないものになっただろう(小沢、フランキーには主演作もあった。特に小沢の「エロ事師たち」「競輪上人行状記」は忘れられない)。

 加藤さんでは、奇才・川島雄三監督の「グラマ島の誘惑」が最高だ。日系二世の通訳で登場するのだが、その怪しげな日本語のおかしさといったらない。懸命に敬語を使おうとするのだが、それが自分に対する敬意やていねいな表現になってしまう(新藤兼人脚本だったかな?)。このトンチンカンぶりは、加藤さん以外ではとても表現できないだろう(加藤さんは中学の英語教師の経験がある)。

 と書いてきて、いまのプロ野球にないものは、この加藤さん的脇役であることに気がついた(最近の映画の世界だって、主役も脇役もないノッペリした作品ばかり)。「主役を食ってしまう」といった脇役ではない。とにかく、自立した脇役だが、主役と張り合うようなセコイことはやらない。しかし、結果として“主役的脇役”になってしまう。しかも、主役を邪魔することはない。

 まことに難しいポジションなのだが、昔のプロ野球にはウジャウジャいた。古くは千葉茂(巨人)、坪内道典(中日ほか)、岡本伊三美(南海)、古葉竹識(広島)、三宅秀史(阪神)、土井正三(巨人)、三村敏之(広島)、大下剛史(広島ほか)、大橋穣(阪急ほか)、辻発彦(西武ほか)、篠塚和典(巨人)……。大主役のように思われている豊田泰光(西鉄ほか)も二番打者時代は「日本一の脇役」だった。

 いまのプロ野球で求められる脇役は・・・

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岡江昇三郎のWEEKLY COLUMN

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プロ野球観戦歴44年のベースボールライター・岡江昇三郎の連載コラム。

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