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岡江昇三郎

「野球」は翻訳の最高傑作!直訳的な「棒球」でも、原音そのままの「ベースボール」でも日本にはふさわしくない。学校に組み込まれ大発展。

 

 サッカーやラグビーのルールは、ほとんどカタカナ表記だが、「アディショナルタイム」や最近はほとんど使わないが「インジュアリータイム」なんてのはどうもねえ。規定の時間を過ぎてもなおプレーできる時間のことを指すのだが、アディショナル(追加の)やインジュアリー(負傷)なんてわざわざカタカナにしなくてもいいんじゃないの。映画の題名もこのごろはカタカナばかり。日本語への置き換えが困難というよりは、いい邦訳をつけるのに自信がなく怖いのかもしれない。翻訳(日本語)能力の低下。

 イタリアに「翻訳は裏切り」という語呂合わせ(日本語では分かりません)の格言めいた表現があるが、それが怖いのか。モーツアルトの初期のオペラに「ラ・フィンタ・グアルデニエラ」というのがあるが、このイタリア語は、普通「にせの女庭師」と訳されるが、筆者は昔から「モーツアルトの曲にはふさわしくないなあ。ダサイ日本語だなあ」と不満だった。これを、音楽評論家で仏文学者の石井宏さんが「恋の花つくり」と訳したときは、思わず「うまい!」と手をたたいてしまった。翻訳はこうこなくっちゃあ。

 野球というスポーツは用語もプレーも日本で巧みに「翻訳され」大いに広まった国民的スポーツだが、筆者はこの翻訳群は傑作中の傑作だったと思っている。アメリカとは国民性のまるで違う日本の風土にしっかりと根づいてしまった野球文化。これは最初の翻訳者が学生たちであり(開成学校→一高→東大)、そこから全国の学校に広まっていったことが、日本に野球を根づかせることになった大きな要因だった。

1872年(明治5年)に日本に野球を伝えた第一大学区第一番中学の教師だったホーレス・ウィルソン。同校が73年に開成学校となると本格的に野球が始まった



 アメリカでは、ベースボールで銭を稼ぐ、これがスタート。そういうものとして、日本に入ってきたら、これは、すぐには受け入れられなかっただろう・・・

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プロ野球観戦歴44年のベースボールライター・岡江昇三郎の連載コラム。

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