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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「世界の王封じ」

 

弱いチームだからこその奇策。その効用は?


 勝負事は、正攻法と奇策の組み合わせである。正攻法ばかりでは勝てないから、タイミングを計って奇策を組み込み、相手を心理的に揺さぶる。前回の話の続きから始めよう。“奇策”というほどではないが、南海時代はこんなこともやった。三塁にランナーを置いた場面、そのサードランナーとバッターに、ヒットエンドランを遂行させるのだ。サードランナーには、五分ぐらいの力をもってホームに走らせる。特に藤原満は器用なバッターだったので、外野フライを打つのが難しそうなときは、その作戦が当たった。

 ピッチャーには、偽投けん制もよくやらせた。ファーストへの偽投をさせたのも私が最初ではないかと思うのだが、それに加えて満塁でサードへ偽投し、セカンドランナーを刺そうと狙った。なぜセカンドランナーなのか。塁上の3人のランナーの中で、「内野ゴロでも、ヒットでも、絶対ホームへ還ってやる」と最も張り切っているのが、セカンドランナーだからだ。そのうえ、けん制は来ないもんだと安心して、結構大きなリードを取ってくる。

 二死満塁、カウント3ボール2ストライク。スタートを切ったところで、サードへ偽投。大きくて不器用なあの江本孟紀が、何度か成功した“奇策”である。

 野球は27個のアウトを取ったら、ゲームセットだ。アウトはバッターからだけでなく、塁上のランナー、走っているランナーからも稼ぐことができる。そういう形のアウトは、むしろ相手にとってはショックだし、勢いが止まる。逆にこちらのベンチは、勢いづく。まさにこのときのために、キャンプから練習を重ねてきたのだ。その練習が実戦で成功するとベンチは盛り上がり、士気もより一層上がるというものだ。

 そして何より大切なのは・・・

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野村克也の本格野球論

野村克也の本格野球論

勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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