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野村克也の本格野球論

野村克也が語る“バッティング(2)” 「ああ、いずれコイツに追い抜かれるんだな」と悟った王貞治との一件

 

大根切りで振ってレベルスイング


 あるとき銀座で飲んでいたら偶然、王(貞治)が入ってきた。「一緒に飲もう」と誘ってワイワイやっていたが、午後9時を回ったところで、王が「ノムさん、悪いけど先に失礼します」と腰を上げた。「おいおい、まだ早いやんか。久しぶりに会ったんだから、もうちょっと遊んでいけよ」

 私がそう言って引き留めようとすると、王は「いや、荒川さんが待っているので、行かなければなりません」と言う。

「えっ!?これから素振りに行くの?」「ええ、そうなんです」「じゃあ、俺が荒川さんに電話するからさ。“今日は休ませてください”って」「それだけは勘弁してください(笑)」

 じゃあ、と言って、王が店を出たあと、私はなんとも言えない気持ちになった。「ああ、いずれコイツに追い抜かれるんだな」──片や銀座で遊んでいる、片や素振りに行くという、この差は大きい。

 そんな王の素振りを見せてもらったことがある。合気道や日本刀を、素振りに取り入れていると聞いたためだ。その日は、日本刀を振っていた。それはもう、気軽に声をかけられるような雰囲気ではなかった。まさに“真剣”そのもの。殺気立っている。私はただただ黙って、見物しているだけだった。

▲王の日本刀での素振りはまさに“真剣”そのものだった



 王の素振りはダウンスイング。上から下へ、俗にいう大根切りのような軌道で行う。「なんでそんな素振りをするんだ。レベルスイングじゃないのか」

 私は聞くと、王はこう言った。「ノムさん、人間にはどうも錯覚があるようで、レベルに振っているつもりでも、実際はアッパーになっているんです。だから、これぐらいの感覚で振って、ちょうどレベルなんですよ」

 なるほどな、と思った。

 確かに私も夜の素振りのとき、同様のイメージを持ちながら、自分の姿を鏡に映し確認していた。構えたところからミートポイントまで。勝負は・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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