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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「交流戦&DH制&二刀流」

 

DH制では監督采配の機微を発揮できない


 今年も交流戦が始まった。

 私は交流戦が好きではない。セ・リーグとパ・リーグに分かれている意味がなくなるからだ。アメリカのマネをしたのだろうが、要はパ・リーグが巨人とのカードを作りたかったのだ。人のふんどしで相撲をとるとはなんたることか。交流戦の存在は、オールスター戦や日本シリーズの価値さえ損なってしまう。

 加えて今年の交流戦、通常とは逆にセ・リーグのホームでDH制、パ・リーグのホームで9人制を敷くという。だいたい私は、DH制自体が嫌いなのだ。野球は9人。10人でやるものではない。それは、ルールブックを見てもらえば分かる。

「野球は〜(略)〜監督が指揮する九人のプレーヤーから成る二つのチームの間で、〜(略)〜行われる競技である」

 冒頭にこの一文が記されている。私はルールを破るのが嫌いだ。ルールには従うべきである。

 DH制のせいで、失業せざるを得ない選手だって出てくるかもしれない。その筆頭が、『ピンチヒッター』。ピッチャーの打順で、ピンチヒッターが出る。控えの選手には絶好のチャンスだ。そういう選手が、飯を食えなくなってきているのではないか。

 第一、DH制では“采配の妙”、すなわち監督の手腕を発揮する場が少なくなってしまう。投手交代か、続投か。戦況に応じた監督采配の機微は、9人制にこそ見られるものだ。

 さらに野球のもう一つの魅力は、ファンが監督になったつもりで野球を見ることができるところだろう。

「ここは、ピッチャー交代」「ここは代打・○○」

 監督采配を楽しみながら、野球を見ているファンは結構いるはずだ。そんな楽しみさえ、DH制は奪ってしまう。DH制なんて、そもそも邪道だ。私はいまもって大反対である。

 邪道といえば、私は予告先発制度にも反対だ。人気ピッチャーの登板を予告し、観客動員を増やそうとして始まったものだが、果たして客を呼べるようなピッチャーが本当にいるのか。むしろ、逆の場合――「このピッチャーなら、今日は球場に行くのをやめておこう」と思う方が多いのではないか。

 楽天監督に就任したとき、当時パ・リーグでのみ行われていた予告先発の廃止を監督会議で訴えたが、他球団は聞く耳を持たなかった。そして廃止どころか、セ・パ両リーグで行うようになってしまった。

大谷の二刀流には「大反対」から「大賛成」へ


 交流戦でDH制をセの本拠地で敷くことも、ファンの興味をさらに引こうという試みだろうが、そんなことでファンはだまされないと私は思う。やはり野球は9人対9人で戦い、野球の本質をお見せすることが、ファンの目を肥やす、ファンを育てることにつながるはずだ。

 ただ、パの本拠地で9人制を採用すれば、札幌ドームのファンは大谷翔平(日本ハム)が投げる試合で、打席に入る姿も同時に見られる。これはファンにとってたまらないだろう。

 大谷翔平に関して、私は以前このコーナーで書いたとおり、最初二刀流には反対していた。『二兎を追うものは一兎を得ず』だと考えていたからだ。しかし、今季のプレーを見ていて、その考えは変わった。

 まず、バッティング。広角に長打を打ち分けるセンスがある。つまりコースに対して、ボールに対して素直に打ち返しているということ。ホームランバッターは、例えば王貞治(元巨人=現ソフトバンク会長)にしても、左バッターだからライト方向にしか打たない。そこで、『王シフト』が敷かれるようになった。レフトに打球が飛ばないが、同じ左でも大谷のバッティングは違う。

 ピッチャーとしても、150キロ台のストレートを投げる。それだけでもう、素質十分だ。速い球を投げる力は、一昼夜にしてできるものではない。球が速い、足が速い、遠くへ飛ばす、その3つばかりはいくら努力しても叶わない、天性だ。大谷の場合、球のスピードをすでに持っているわけだから、あと何か一つ、努力して覚えればいいわけだ。相手打者が嫌がる球種をもう一つ覚えれば、それで十分だと私は思う。

 二刀流も、あれだけのバッティングとピッチングができるなら、大賛成。今まで誰もやったことがないことをやるというのも、魅力である。『10年に1人の逸材』と呼ばれる者はよくいるが、プロ野球80年の歴史で、あんな選手は初めてだろう。だいたい名投手、強打者に足の長い選手はいない。アメリカでも、強打者はみな胴長、短足だ。カネやん(金田正一=元国鉄ほか)だって、あんなに上背があっても足は短い。

 大谷が最多勝、ホームラン王の両方を獲ったら面白いなあ、と夢は広がる。そう応援したくなるような雰囲気をまた、大谷は持っている。若いのに、非常に謙虚。うぬぼれたようなところはないし、何事に対しても姿勢がいい。性格がいいんだな。これからますますファンは増えるだろう。

▲投打に才能を発揮している大谷。筆者も二刀流をやるべき選手と認めている


PROFILE
のむら・かつや●1935年6月29日生まれ。京都府出身。54年にテスト生として南海に入団し、56年からレギュラーに。78年にロッテ、79年に西武に移籍し、80年に引退。歴代2位の通算657本塁打、戦後初の三冠王に輝いた強打と、巧みなリードで球界を代表する捕手として活躍した。引退後は90〜98年までヤクルト、99〜2001年まで阪神、03〜05年までシダックス(社会人)、06〜09年まで楽天で監督を務め、数々の名選手を育て上げた。その後は野球解説者として活躍、2020年2月11日に84歳で逝去。
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野村克也の本格野球論

勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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