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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「中西太の打球」

 

中西さんの本塁打は内野手が飛びつくほど低い弾道だった


 今回は、読者の質問から話を進めてみよう。

「最近プロ野球を見ていると、打球音がペチッとかペキッとか冴えない音ばかり。王、長嶋の時代は圧縮バット全盛だったこともありますが、もっと乾いたようなクリアな打球音で、臨場感があったように思います。打球音でときめくことは、もうできないのでしょうか」(密原さん)

 打球音に関して、私はまったく意識も確認もしたことがなかった。私たちにとっては毎日のことで、おそらく耳慣れしてしまっているのだろう。「遠くへ飛んでいく=芯に当たっている」ということ。グシャっと詰まれば、音も悪い。それより細かい打球音の違いは、ファンの方が興味もあるだろうし、敏感なのかもしれない。

 ただ前にも書いたとおり、素振りについては“音”で判断した。夜中、一人で素振りをする。バットを振ったとき、「ブッ」と音がすればOK。「ブ〜ッ」と長いときはよくない。「ブッ」と音がするまで、何回でもバットを振った。

 他人の素振りの音では、中西太(西鉄)さんの素振りが強烈だった。大阪球場で、私たちは一塁側、西鉄は三塁側。三塁側ベンチ前で中西さんが素振りをすると「ブンッ」という音が一塁側まで聞こえた。「すげえな」と皆で顔を見合わせたものだ。

 あんな音が聞こえたのは、中西さんただ一人だったと思う。私たちキャッチャーなど、目の前でブンッと振られるのだから、迫力はさらにケタ違いだ。太さんはまず体から違う。上背は私より2センチほど低い程度で、ほぼ同じ。しかし体重は10キロ近く多かった。力士のような体で、柔らかい。彼は力士になっても一流だっただろう。

怪童と呼ばれた中西太の打球はとにかくすごかった[写真=BBM]


 今でいうと、西武中村剛也に似たタイプか。素振り一つ、フリーバッティング一つとっても、絵になった。「(打球が)ピンポン玉のように飛んでいく」という表現は、中西さんの打球から生まれたはずだ。

 中西さんといえば、「内野手がライナーだと思って飛びつこうとしたら、打球がグーンと伸び、スタンドに突き刺さった」というエピソードが有名・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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