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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「トリプルスリー」

 

天はパワーとスピードの二物を与えず?


 ソフトバンク柳田悠岐ヤクルト山田哲人の2人が「3割・30本塁打・30盗塁」の“トリプリスリー”達成をほぼ確実にした。2選手同時達成は1950年の別当薫(毎日)さん、岩本義行(松竹)さん以来、65年ぶり。約80年というプロ野球史の中で、わずか8人しか達成していない記録といえば、いかに難しいことかが分かるだろう。

「野村さん、私、“走る中西太さん”を想像できないんですが……。野村さんはナマでご覧になっているんですよね?」

 若い(……といっても私より若いという意味で、50歳を超えた)編集者にこう聞かれた。あの中西太さんも53年、打率.314、本塁打36、盗塁36でトリプリスリーを達成しているのである(史上3人目)。

 私は高松一高時代から、中西さんの姿を見ている。53年当時、中西さんは西鉄入団2年目の20歳。まだ体も細く、そこそこ俊足だった。内野手らしい身のこなしで、盗塁もまったく不思議ではない。

 かくいう私だって、3割30本塁打“13盗塁”なら記録しているのだ。『クイック投法』のなかった時代。固定観念なのか、「足の速い選手しか盗塁する資格はない」というような風潮があった。逆に言えば、“野球を知っている監督”なら、どんどん走らせる。私に対しても、バッテリーはノーマークだった。おかげで通算盗塁は117。2ケタ盗塁は3度記録しているし、ホームスチールも7回成功させた。

 トリプルスリーの難しさは、パワーとスピードが両立しないからだ。確かにホームランバッターには、足の遅い選手が多い。天は二物を与えず。王(貞治=現ソフトバンク会長)だって、足は遅かった。

トリプルスリーを達成した1953年当時の中西太[左。右は豊田泰光]。意外に足は速かった[写真=BBM]



 一方、世界の盗塁王・福本(豊=元阪急)はパンチ力もあり、すりこぎバットで通算208本塁打。80年にはシーズン21本打っている。ヒットに徹底すれば、もっと通算打率(.291)も上がったのではないかと思う。実際、私は彼にちらっと助言したことがあるのだが・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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