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2020タイトルホルダーインタビュー

西武・増田達至 チームに勝利を呼ぶ無敗のセーブ王

 

今季もタイトルを獲得した選手の連載インタビューをスタート。まずは西武の守護神・増田達至の登場だ。今季、チームが最大8の借金からシーズン最終盤にロッテと2位争いを展開できたのはリリーフ陣の力があったからだろう。そのなかでも増田の存在感は大きかった。48試合に投げ、33セーブ。辻発彦監督も「頼りになる」と絶大な信頼を置く男は初のセーブ王に輝いた。
取材・構成=小林光男 写真=小山真司、BBM


 史上3人目の快挙とともに、初タイトルを手にした。クローザーを務めるようになってから5年目。増田達至はチームに勝利を呼び込み続けた。5勝0敗33セーブ、防御率2.02。無敗でセーブ王のタイトルに輝いたのは1997年の横浜・佐々木主浩(3勝38セーブ)、2009年の日本ハム武田久(3勝34セーブ)と並ぶ大記録だ。正真正銘、誰からも認められるクローザーとなった。



――今季の投球の自己評価は?

増田 新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が遅れて、難しい面はありましたが、シーズンへの入りは良かったです。当初、同一カード6連戦が続いたときはやりづらさもありましたが、自分の投球をするだけだと思っていましたね。

――同点にされたことはありましたが、無敗でシーズンを終えたことに関してはどうとらえていますか。

増田 正直、無敗で終わるとは考えられなかったです。ただ、状態が悪いときも逆転されなかったという点は、自分の中では良かったと思います。やはり、後ろを任されているので、最悪同点までという考えはありますから。

――「33」という数については?

増田 143試合制では昨年の30セーブが最多。それが今年は120試合で33セーブですから、うれしいことですね。

――タイトルの意識はありましたか。

増田 最初はまったく意識していませんでした。それが10月になって、ソフトバンクは勝っていましたが森(森唯斗)君にセーブ機会が少なく、ロッテは低迷して益田(益田直也)君のセーブ数が伸びなかった。それで自分は巡り合わせが良く、10月終わりにトップに立って(10月27日)。そこで初めて意識するようになりましたね。

――15年には最優秀中継ぎ投手賞を獲得していますが、今回との違いはありますか。

増田 そのときは3年目でしたが1試合、1試合、必死にガムシャラに投げて、そのお礼みたいな感覚でした。しかし、今年は周りの皆さんのおかげで獲ることができた賞です。使っていただいた監督、コーチ、そしてつないでくれた先発投手、中継ぎ投手の皆さん、そしてスタッフの皆さんのおかげです。

――11月3日の日本ハム戦(メットライフ)で挙げた33セーブ目が通算136セーブ。豊田清コーチを抜いて、球団通算トップに立ちました。

増田 セーブ数だけを見ると球団1位になりましたが、内容を考えると、豊田さんとは比べのものにはならないと思っています。

――プロ野球史上では20位です。6人しか達成していない200セーブを超えたいという思いは?

増田 そういうのは全然ないですね。本当に1試合、1試合、チームに貢献したいと思っているだけです。

――クローザーとして経験を重ね、意識に変化はありましたか。

増田 最初はガムシャラにやっていましたけど、今は状況を考えてマウンドに上がっています。ここは先頭打者をしっかり抑える、1点差だと長打は許されないなど。少しは考えるようになりましたね。

――オフに平野佳寿投手(マリナーズFA)と自主トレを行っていますが、クローザーの心構えを聞くことは?

増田 昔は尋ねたかもしれないですけど、いまはそういうことよりも、トレーニングやケアに関して聞きますね。今年で32歳と年齢も重ねてきていますし、無理をし過ぎてはいけない、と。もちろん、無理をしないといけない部分もありますが、ケガにつながると思ったらやめる。年齢に応じたトレーニングやケアを教わっています。

クローザーは向いていないと思う


 増田の武器と言えばうなりを上げるストレートだ。同学年でドラフト同期入団の高橋朋己に増田のすごさを聞けば「ストレートがえげつない」。若手リリーバーの平良海馬宮川哲は「増田さんのようなストレートを投げたい」と声をそろえる。今季は547球を投じ、奪空振り率13.7%を誇ったストレートは間違いなく、日本球界でもトップレベルだ



――ストレートにこだわりは?

増田 やっぱりストレートがあっての自分。変化球が生きるのも強いストレートがあってこそ。相手が分かっていても打てないストレートを投げたいとずっと思っています。ストレートは年齢を重ねてもこだわっていきたい。本当に毎日、毎日、もっと向上すればいいなと考えて、いろいろ取り組んでいます。

――今年のストレートの出来は?

増田 いいときはいい、悪いときは悪いとはっきりしていたかな、と自分では感じています。ストレートの調子の波を小さくしていきたい。そこは来シーズン以降、気をつけたい点です。

力強いストレートを軸に打者と勝負し、守護神の座に君臨する増田


――ところでクローザーは向いていると思いますか。

増田 いや〜、自分では向いていないと思います(苦笑)。

――周囲は重圧がかかっている場面でも平然と抑えてベンチに帰ってくるのはすごいと感嘆しています。

増田 自分の中でいっぱいいっぱいなときもあります。ブルペンで肩をつくっているときに「今日ちょっとイマイチやな」と思ったときも、マウンドに上がらないといけないので。

――しかし、メンタルは強いと周囲は評価しています。

増田 メンタルと体の強さはクローザーに必要な資質でしょうが、自分ではメンタルが強いとは思っていないんですよ。今季も何回か同点に追いつかれたときに、「やめたいな」と感じたときも多々あったので。でも、任されている以上はやらないといけないと自分に言い聞かせていました。

――調子が悪かったり、気持ちが沈んでいたりしても、それを周囲に悟られてはいけない。

増田 マウンドに上がるときは状態が良くても、悪くてもいつも同じように。それは心掛けていますね。あとはマウンドでは対バッター、1球に集中するだけです。

――失敗したときの気持ちの切り替え方は?

増田 特にないです。打たれても次の日はやって来るので、しっかりやらないといけないと思うだけですね。

――今季の最終盤、2位・ロッテを追い上げる原動力となったのはリリーフの力でした。

増田 いや、1年を通して考えるとまだまだなんで。やっぱり毎年、言っているように、1試合でも多く、投手で勝てる試合があればいいかなと思っています。

――平良、森脇亮介投手という力のあるリリーフも台頭してきました。

増田 若い投手が出てきて、僕は1日、1日必死に食らいついていました。あの2人がいい投球をして、いい流れでバトンを渡してくれる。自分が失敗したらポジションを取って代わられるかもしれないという思いがありましたよ。

――危機感はあるんですね。

増田 メッチャ、ありますよ。18年、不調でクローザーをはく奪された経験がありますから。

――かつて、ともに勝ちパターンを担っていた高橋朋投手が今シーズン限りでユニフォームを脱ぐことになりました。

増田 最近はケガで苦しんでましたし、いずれ一緒に一軍マウンドで勝利の喜びを分かち合いたいと思っていましたけど……。同級生、ドラフト同期も年々減ってきています。彼らの分まで1年でも長く、頑張ることができればなと思います。

――今季、国内FA権を取得して、行使に関しては熟考中ということですが、来季はどのようなピッチングをしたいですか。

増田 毎年、変わらないですけど、チームに貢献するだけです。1試合でも多く、勝利に結びつくような投球をしたい。

――もちろん、セーブ王は譲れない?

増田 はい、そうですね。タイトルは毎年、獲りたいなと思います。

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【2020 Impressive Play】辻監督が「鉄人」と称賛


◆10月9日 楽天戦(楽天生命パーク)

 7回表終了時点で3対2と1点リード。7回裏からブルペン勝負となったが、セットアッパーの平良海馬が体の張りでベンチ外。しかしリリーフ陣の結束力は強かった。宮川哲が7回裏をゼロで抑えると、8回表に味方打線が2点を追加。その裏、森脇亮介がゼロでつなぐと3点リードの9回裏、増田達至がマウンドへ。今季初の4日連続登板となった。増田は2人の走者を出したが、最後は全6球真っすぐで黒川史陽を空振り三振に仕留め26セーブ。チームは最大8までふくらんだ借金を1まで減らした。「投手はみんなで助け合いながらチームに貢献できればと思う」と増田。辻発彦監督は「鉄人だから」と最大限の賛辞を送った。

PROFILE
ますだ・たつし●1988年4月23日生まれ。兵庫県出身。右投右打。柳学園高から福井工大、NTT西日本を経て2013年にドラフト1位で西武入団。1年目から主にリリーフとして42試合に登板し、15年には42ホールドポイントを挙げて最優秀中継ぎ投手に。16年からクローザーに転向。今季は33セーブを挙げて、初のセーブ王のタイトルを獲得した。通算成績は422試合登板、25勝26敗86ホールド136セーブ、防御率2.73。
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