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惜別球人2013

宮本慎也インタビュー「優勝しないとワキ役は評価されないんです」

 



決して妥協することなく、勝利だけを追い求めたプロ野球人生だった。ワキ役として、チームプレーに徹する。その思いだけで19年間突っ走り、守備で高い評価を得て、史上3位の通算400犠打もマーク。しかし、ただのワキ役だけでは終わらない。随所でリーダーシップも発揮し、日本代表として2006年のWBCで世界一に輝き、2000安打もマークして名球会入りも果たすなど、数多くのスポットライトも浴びた。まさに入団時の野村克也監督の言葉、「一流のワキ役」を実践した野球人生だった。

取材・構成=小林光男 写真=BBM
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オフが一番つらかった

――現役中は夢の中にも野球が出てくることがあったという宮本さんですが、ユニフォームを脱いだ今、そのようなことはないですか。

宮本 そうですね。でも、何と言っても練習しなくていいというのがうれしくて、うれしくて(笑)。考えてみると僕はオフが一番しんどかった。次の年、レベルアップする姿を見せるためにオフは最も大事だったので。ここ数年は別の意味でしんどかったです。若いときはこういったプレーをしたい、と夢がふくらんでつらいトレーニングに励めましたけど、年齢を重ねるとそういったことを見つけるのも難しくて。じっとしているとまずいから、体を動かそうという感じでしたから。

――今年の日本シリーズなど取材されていましたけど、もう大舞台に立てない寂しさは?

宮本 感じなかったんですよね。自分だったらここでこうするという視点では見ていましたが、プレーしたいという気持ちは湧き起こらなかった。現役に関してはやり残したことはありません。そう言った意味では幸せな野球人生でした。

――誰しも主役になりたいと思ってプロに入るでしょうが、当初は宮本さんも同様でしたか。

宮本 キャンプで先輩方と一緒に練習したら分かりますよ、主役にはなれない、と。守備は自信がありましたけど、そのほかは全然。体がまったく違いましたし、短所を伸ばさなければ守備固めで終わってしまうと実感しました。野村(克也)監督からも「お前はワキ役だ」ということを意識づけられましたし、その道で生きていこう、と。だから短所である打撃に関しては、進塁打や犠打、ヒットエンドランなど打撃の形うんぬんよりも、そういったプレーを確実にこなすことを徹底しました。

▲1995年ドラフト2位でヤクルトに入団(後列左から稲葉篤紀、宮本、吉元伸二、前列左から北川哲也、野村克也監督)



――プロでやっていく自信がついたのはいつごろですか。

宮本 これで簡単にメンバーから外されないなと思ったのは、2000年に3割をマークしたときです。1997年に規定打席に達して.282を打ちましたけど、98年は.258、99年は.248と数字を落としていましたから。そのころバットも変え、自分の考えもゼロにして中西(太)さんに教えを請いました。アウトコース低めを強くスイングする練習を反復して、それが奏功したと思います。

――01年は八番から二番に役割が変わり、シーズン記録となる67犠打をマークしました。

宮本 打率も.270に落としましたけど、やっぱり二番より八番の方が、いい投手ほど力を抜いて投げてきます。二番の場合はクリーンアップに続いていきますから、ランナーをためたくないので全力で来る。制約がある二番で右打者が3割を残すのは難しいことです。だけど、自分はここで定着しないと長くプレーはできないと感じたので、打撃力向上は常に目指していました。ワキ役の仕事を全うすることは当然ですけど、相手が気を抜いたら本塁打も打つ、というくらいの打者にはなりたいな、と。ウエートにも力を入れて04年には11本塁打することはできましたけど、何よりも相手投手になめられるのが嫌でしたから。

優勝の喜びは最高

――その向上心が2000本安打にもつながったんですね。

宮本 野球は小さなころから好きで、ずっと続けてきたこと。好きなことを仕事にできるのは限られた人でしょうし、自分は夢がかなってプロ野球選手になれました。だからこそ、どうやれば結果が出るのかということばかりを考えて現役時代を過ごしていましたし、「まあ、いいか」で終わることはなかった。壁にぶち当たっても、「何とかしないと」と常に思っていましたね。

▲12年5月4日の広島戦(神宮)で史上40人目の2000安打を達成



――対戦して印象に残っている投手は?

宮本 佐々木(主浩)さんのフォークはすごかったです。あと(藤川)球児の真っすぐに、全盛期の岩瀬(仁紀)のスライダー。佐々木さんはコントロールも素晴らしかった。球児は彼が後ろに回ってから、ほとんど打てていません。岩瀬のスライダーは大げさに言うと怖さを感じました。自分に向かってくる感じで、どうやってバットを出したら角度が合うのか最初は全然分からなかったですね。



――ワキ役の喜びを感じるときは?

宮本 優勝しないと感じません。優勝しないとワキ役は評価されないんです・・・

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惜しまれながらユニフォームを脱いだ選手へのインタビュー。入団から引退までの軌跡をたどる。

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