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Vol.3 山崎康晃[亜大・投手]

 

明大のサウスポー・山崎福也に続いて登場するのがもう一人の「ヤマサキ」、亜大・山崎康晃である。
この両校は秋の神宮大会決勝で激突し、山崎康の亜大が優勝を果たした。
この大会では抑え投手として全3試合に登板して自責点0、優勝投手となった。
この完成度の高い右腕もまた、ドラフト1位の有力候補である。


最大の武器は精度の高い変化球


 東都大学秋季一部リーグ戦において、亜大はエース・九里が全登板の7試合のうち、先発6試合ですべて完投勝利。一方の山崎は4試合に登板して2勝1敗と数字の上では先輩右腕に後れを取っていた。

 ただ、神宮大会での山崎の投球には、目を見張るものがあった。メンタルが安定しており、「絶対に打ち取る」という気迫が前面に出ていた。この大会では2回戦から決勝までの3試合、すべてが先発・九里、抑え・山崎だった。クローザーとしてイニングまたぎもたくましくこなし、リーグ戦よりも充実した内容だった。

 採点表を見てもらえば分かるとおり、「9.0点」が大部分を占める。これは、完成度の高さ、バランスをの良さを示しているものだ。

 まず、投球フォーム(9.0点)を見ていくと、左足を上げた際、軸足によくタメができており、バランスを注意しながら投げていることがうかがい知れる。自らの投球フォームをチェックしながら投げることができるため、安定感が出るのだ。ただ、前足への体重の乗りはやや不十分で、下半身のキレが今ひとつなのが惜しいところだろう。ストレート(8・5点)が低く入るのはいいが、もう少しキレが欲しい。

 その反面、変化球(9.5点)はこの投手の最大の武器であり、カーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシーム、カットボールを自在に操ることができる。特に低めに集めるスライダー、ツーシームは、大学レベルでは攻略困難の精度を誇る。

 軸となるストレートが安定し、マウンド上での躍動感が出てくれば、変化球を駆使する投球術(9.0点)もより効果を発揮することになるはずだ。現状の変化球に依存するスタイルでは、打線の3周り目くらいになれば目が慣れ、低めの変化球を見極められる恐れがある。

 制球力(9.0点)も申し分ないのだが、今後は高めの配球も必要になってくるだろう。現状では両サイドの低めで勝負している山崎。この横のコンビネーションに縦のそれが加われば、さらに投球の幅は広がり、ますますスキのない投手となる。

 守備力(9.0点)に関しても、野手としてのスキルを大いに感じさせるものがある。けん制、クイックは技術レベルが高く、それだけで走者への抑止力となっている。バント処理に関しても動作が機敏で、先の塁で刺す意欲も十分にある。こういった技術は日ごろの反復練習がモノをいう。今後も怠ることなく鍛錬に励んでほしい。



東都6連覇へ進むエースの役割



 冒頭でも述べたように、そのピッチングから打者に向かう強いメンタル(9.0点)がうかがい知ることができる。春は開幕後に不調の九里に代わり1回戦の先発に。ライバル・国学院大戦で完封勝ちするなどして一本立ちした。チームの危機に力を発揮できるメンタルは、実に頼もしいものだった。

 エースを上回る防御率をマークした本人は「九里さんと競争しながら投げることができた。もっと成長したい」と語っており、向上心にあふれていた。この気持ちがあれば右肩上がりは続いていくことだろう。

 体力(9.0点)、そしてスタミナも申し分ない。先発完投の能力は十分に有している。やや細身の体も、トレーニング次第で大きくなるはず。これから、東浜巨(現福岡ソフトバンク)、九里がそうだったように、絶対的エースとして亜大を東都6連覇に導く責務がのしかかる。この冬場に下半身をいじめ抜き、春に成長した姿を見せるためにも、向上心を持って取り組んでもらいたい。

 将来性(9.0点)について考えれば、先発、中継ぎの両方に適性がある。何より、球を低めに集めてゴロを打たせる能力が非常に高い。長いイニングにも対応できるし、走者を背負っても動じることがないため、益田直也(千葉ロッテ)のような、イニングまたぎのできるクローザーを務めても面白いだろう。マルチな活躍が期待できる、実に楽しみな右腕である。

 突出したものはないが、投手としての総合力(9.0点)は高い。やや地味ではあるが、波が少なく安心して計算できる投手。また、大学では上級生に東浜、九里というエースがおり、じっくり育てられて“使い減り”していないことも大きい。ただ、もうワンランク上を目指すのであれば、今以上のストレートのキレが必要となる。現在、ストレートの最速は151キロ。球速を追い求めながら、キレも意識したい。

 2014年は主将の嶺井が抜け、最上級生となる山崎がチームを引っ張る立場となる。そのためには、打者に威圧感を感じさせるようなスタイルが必要だ。目標の設定により、投手は変貌するもの。高い志を持って取り組んでいけば、マウンド上での存在感も増すはずである。

■採点表
投球フォーム 9.0
ストレート 8.5
変化球 9.5
投球術 9.0
制球力 9.0
守備力 9.0
メンタル 9.0
体力 9.0
将来性 9.0
総合力 9.0
合計 90.0
※採点の基準は2014年のドラフト対象選手

PROFILE
やまさき・やすあき●1992年10月2日生まれ。東京都出身。177cm 72kg。右投右打。第6日暮里小1年時に西日暮里グライティーズで野球を始め、尾久八幡中でも同チームに所属し、3年秋にオール東京でKボールの全国大会出場。帝京高では2年春からベンチ入りし、2年夏、3年春の甲子園に出場し、いずれも8強進出。3年夏は東東京大会5回戦で敗退。亜大では1年春から登板。3年夏には大学日本代表に選出され、日米大学選手権で最優秀投手賞を受賞した。
【スカウトはみ出しCOLUMN】

新人を注視しつつ春季キャンプ視察へ


 新人合同自主トレでは、オフに渡したメニューを選手たちがしっかりやってきたかをチェック。出遅れている選手などがいたらアドバイスをするのもスカウトの役割である。ときには寮長に生活態度がどうかを聞き、その選手の個性を把握する。

 そして春季キャンプに入るわけだが、スカウトもまた、1週間から10日ほど、自チームの練習を視察することになる。ルーキー選手の動向チェックが主となるが、2年目選手がどの程度育ってきているかなど、力量の線引きをするのも大切である。スカウトとはすなわち戦力補強。埋もれているアマチュア選手を発掘するのも大事だが、自チームに今、何が足りなくて、どんな選手が必要とされているのかが大前提なのだ。

 今年の巨人のドラフト1位捕手・小林誠司(日本生命)を例にしてみると、球団は正捕手・阿部には及ばないが、2番手以降の實松、加藤クラスには割って入る実力があると判断。そして指名に至ったのだろう。

 また、温暖な九州・沖縄ではアマチュアチームもキャンプを張ることが多い。プロ視察と平行してアマチュアチーム監督に“陣中見舞い”をすることも重要な仕事である。
プロフェッショナルレポート

プロフェッショナルレポート

元巨人チーフスカウトで現在はベースボールアナリストとして活動する中村和久によるドラフト候補生の能力診断。

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