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Vol.5 金子丈[大商大・投手]

 

この秋の神宮大会で“全国デビュー”を果たした。
準決勝で明大に敗れはしたが、十分に示した大型右腕の可能性。
現時点での採点は厳しいものとなったが、球速をはじめ、すべてにおいて伸びる余地を残している。
新チームでは大黒柱としての働きが求められる金子丈の能力を探った。


すべてにつながる股関節の柔軟性


 この秋、42季ぶりに関西六大学リーグを制覇した大商大。エースとして君臨したのは、地区代表を決める関西選手権の関学大戦でノーヒットノーランを達成した近藤大亮(パナソニック入社予定)だった。その二本柱として先発、抑えと奮投を見せたのが金子だ。

 その投球フォーム(8.5点)だが、まだ188センチ90キロという誰もがうらやむような恵まれた体を持ちながら、それを生かし切れていない印象がある。特に気になるのは下半身に柔らかさが感じられない点。上体、腕の振りに頼った投げ方になってしまっている。下半身、特に股関節の柔軟性が欲しい。そうすれば今よりも下半身移動がスムーズになるはずだ。腕の振り自体はシャープで良い。ストレートや縦に割れるカーブ、フォークなどもうまくリリースでき、落差も十分にある。

 ストレート(8.0点)の課題を挙げれば、とにかく球威が不足している。最速143キロというスピードもそうだが、特に球のキレを補う練習をすべきだ。変化球を多く使う影響からか、リリースポイントが捕手寄りに来ていない。上体で立って投げるフォームになっている。これからは今以上にストレートの割合を増やし、外角低めに球質が良く、精度の高いストレートを投げられるようにしたい。

 変化球(9.0点)は先に述べたとおり、特にカーブが良い。神宮大会の2回戦、近大工学部戦では同点の延長タイブレークの10回から登場したが、カーブを2、3球続けて投げ、確実にストライクが取れていた。これは桂依央利捕手(中日3位)のサインなのだろうか。自信を持っていることは間違いない。95パーセントはストライクを取れるような精度が感じられた。ただ、先発した場合は3周り目あたりで行き詰まってしまうだろう。このカーブを生かすためにも、両コーナーに投げ分けるストレートが必要ではないだろうか。

 得意の変化球を最大限に生かしながら、打たせて取る投球術(8.0点)を持っている。今は球速よりも制球力(8.0点)を重視している投球フォームになっており、そのため、恵まれた体を最大限に利用しているとは言えない。今後、力強さを求めていく中でも、制球力は変わらずキープしていきたいところだ。

 守備力(8.5点)は、大型投手にありがちなバタつきはほとんど見られない。クイックもうまく、走者を意識しながらもしっかり打者と勝負ができている。二塁、三塁へのけん制でもピボット・ターンをうまく使っている。これらの動作も重要であることを意識して、今後の練習に取り組んでもらいたい。



まだ開花前の段階
求められるのは向上心


 メンタル(9.0点)はこの投手の得意分野と言えるはずだ。神宮大会の延長10回、一死満塁で迎えたタイブレークも「こんな場面、どうってことない。打たれる気がしなかった」と強気な発言。その言葉どおり打者2人を抑え、その裏のサヨナラにつなげている。富山陽一監督が抑えで積極的に起用するのも、精神的強さが要因としてあるのだろう。打者に向かっていく姿勢は中継ぎ、抑え向きだ。これにストレートの精度が加われば、先発としても長いイニングを投げることができるはずだ。

 体全体の馬力と持久力は十分に備わっている。体力(9.0点)は問題ない。動作における柔らかさが出てくれば、その馬力を効率よく使うことができる。関西六大学リーグ戦では、ベストナインに輝いた3年春に挙げた5勝のうち4つが完封勝利だった。任された試合で投げ切ることにより、実戦的な体力もついてきている印象である。

 カーブ、フォークと落ちる球を得意としており、将来性(9.0点)としてセットアッパーの資質がある。ただ、その可能性はまだ開花の段階にも来ていないのが現状である。プロ、その中でも上位を目指すという向上心を常に持ち続けてほしい。神宮大会では準決勝に進んで快進撃とも言われたが、東京六大学の明大に勝てなかったのもまた事実。全国大会を経験したからには、リーグ戦で勝つことだけを目標とせず、さらなる高みを目指してもらいたい。まずは、ひと冬越えてどんな投手になっているかが楽しみである。

 好素材の大型右腕。タイプで言えば広島永川勝浩の姿と重なるだろうか。全国の舞台を経験したばかりで、技術力アップはまだまだこれからといったところ。幸い、左ヒザが割れるなどの悪癖は見られない。股関節の柔らかさ。これさえ身につければ今以上の力感ある投手に変貌できるはず。総合力(9.0点)をさらに伸ばしていきたい。

 近藤もいなくなり、新チームでは大黒柱の役割が期待される。その中で結果を残すことができれば、投手としてもう一回り成長できるだろう。

■採点表
投球フォーム 8.5
ストレート 8.0
変化球 9.0
投球術 8.0
制球力 8.0
守備力 8.5
メンタル 9.0
体力 9.0
将来性 9.0
総合力 9.0
合計 86.0
※採点の基準は2014年のドラフト対象選手

PROFILE
かねこ・たけし●1993年2月25日生まれ。大阪府出身。188cm 90kg。右投右打。小学1年時に投手として野球を始める。中学時代は吹田シニアに所属。大院大高で甲子園実績はなく、3年夏にエースとして登板するも4回戦敗退に終わった。大商大では1年春に3勝、防御率1.22(2位)で新人賞にあたる平古場賞を手にする。3年春には5勝1敗(4完封)、リーグトップの防御率0.72でベストナインに選ばれた。同年秋は主に抑えを務め、42季ぶりのリーグ優勝に貢献。神宮大会の2回戦では救援としてチームの勝利をアシストした。
【スカウトはみ出しCOLUMN】

自己管理が成功の鍵
岡島秀樹の「体」


 今回は私がスカウトとしてかかわった3選手の「心・技・体」について述べていきたい。まずは93年にドラフト3位で指名した東山高・岡島秀樹。彼は1年秋に144キロを出し、曲がりの大きなカーブが魅力のあるサウスポーだった。ただ、気がかりは左肩の故障と、投球時に顔を振るという独特なフォーム。3年夏の時点で他球団の評価は下がっていた。ただ、巨人は左投手が補強ポイントであったことから、あきらめきれずにいた。そこで9月に入ってから、東山高のグラウンドに足を運んでみたのだ。すると監督から思わぬ言葉を聞いた。

「岡島は1日おきにピッチング、ウエート・トレをやっていますよ」。実際にピッチング練習を視察したところ、肩の具合は良くなっていた。さらに10月にも見たら、指名するのに十分な状態だった。これこそが技術評価表に表れない彼の良さ。故障は確かに痛かったが、高校野球が終わった後には自ら練習スケジュールを組み、それをきっちりこなすという自己管理の姿勢が備わっていたのだ。

 まもなく38歳を迎えるが、息の長い現役生活を続けている岡島。その理由は高校時代からの取り組む姿勢にあったと言えるだろう。
プロフェッショナルレポート

プロフェッショナルレポート

元巨人チーフスカウトで現在はベースボールアナリストとして活動する中村和久によるドラフト候補生の能力診断。

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