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第7回 パ・リーグ先行のリーグビジネス――“イメージ”を商品とした時代へ

 

 パ・リーグ6球団が独自の商業活動をするための企業体「パシフィックリーグマーケティング(PLM)」が、2014年シーズンから台湾のテレビ局に公式戦のニュース映像を配信する交渉を進めている。パは「台湾の英雄」王貞治氏が球団会長を務めるソフトバンクや、選手では地元出身の陽岱鋼と野球のゲームソフトのキャラクターとして人気の中田翔(ともに日本ハム)らがいるリーグ。“親日派”の多い台湾にとってはなじみがあるだけに、ビジネス展開で見逃せない市場だ。

 13年春の第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)2次ラウンドで日本代表「侍ジャパン」に惜しくも敗れた台湾代表だが、熱戦を演じた感動がファンの心に深く刻み込まれている。同年11月には、小久保裕紀監督が率いる新生侍ジャパンが初陣となる強化試合に訪れたことなどもあり、台湾での日本プロ野球に対する興味は高い。そんな中でのニュース映像の供給は、台湾のファンにとっても魅力のあるコンテンツとなっている。

 07年にパ6球団により設立されたPLMは「地域密着」を合言葉に、共同のイベント企画、スポンサー獲得など“リーグビジネス”に努めている。「スーパースターよりもローカルスターを」という発想で、フランチャイズを重視して地元ファンを着実に獲得。その熱気を、次の“アジア戦略"につなげようとしている。

 PLMを例に取ってみても、パ球団はセ・リーグ球団以上に新規事業の開拓に熱心だ。ホームページの統一化をいち早く行い、情報の共有化を図るなど、球団間の利害を超えてファンのニーズに対応しようとする姿勢はユニークかつアグレッシブだ。

 かつて、セでの巨人戦は「ドル箱カード」と言われていた。集客だけではなく、当時1試合で1億円とも言われた放映料など莫大な収益が転がり込んでいただけに、セ5球団の巨人戦への依存度は否が応でも高かった。だが、20パーセント台を維持した地上波テレビの視聴率が、21世紀を迎えて10パーセント台を割り込むこともあるなど、状況は変わりつつある。

 グラウンド外でのビジネスに出遅れた感のあるセ・リーグも手をこまねいているわけではない。12年から頻繁に集まるようになったセ6球団による社長会では、「まずはファンサービスの充実を」というスローガンでリーグ一丸の営業活動をすることで合意。球団経営のアイデアを共有し、6球団合同の開幕前イベントを企画するなどファンサービスに力を入れるようになった。パ・リーグの本拠地球場を頻繁に視察しているセの某球団の営業担当者は、「球場周辺のイベントや出店など、学ぶべき点が多い。ファンサービスもそうだが残念ながらリーグビジネスはパの方が進んでいる」と認める。

 過去のパ・リーグ球団は巨人のような全国区の人気球団がなかっただけに、経営努力をせざるを得なかったのが実情だ。04年の近鉄球団消滅に端を発した球界再編を経て、「採算のとれる野球ビジネスの確立」(三木谷浩史オーナー)を掲げて新規参入を果たした楽天をはじめ、全体的にマーケティングへの意識は高かった。それが現在のセ、パの格差に表れていると言えよう。

楽天をはじめパはリーグビジネスに注力して地元ファンを獲得。それをアジアに広げようとしている[写真=桜井ひとし]


 日本野球機構では、14年から常設化された侍ジャパンを主体とするマーケティングに本格的に力を入れようとしている。侍プロジェクトとは別の収益を図る方策も検討中。プレーだけではなく、球界ビジネスは“イメージ”を商品とした時代へ突入している。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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