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第39回 新たな獲得ルートの確立――活発化が予想されるキューバ選手の流入

 

 プロ野球の外国人との選手契約やトレードなどによる今シーズンの獲得(ウエーバー移籍は除く)が、7月31日に締め切られた。

 開幕前の支配下選手名簿が公示された後、外国人の補強は13人。うちフレデリク・セペダエクトル・メンドーサ(ともに巨人)、ユリエスキ・グリエル(DeNA)、アルフレド・デスパイネ(ロッテ)の4人が、国外とのプロ契約が解禁となったキューバからの新入団となった。

 キューバは革命政権が樹立した1959年以降、スポーツ選手の国外とのプロ契約を原則的に禁止した。キューバ国内での選手の位置付けは国家公務員だが、高年俸などを求めた亡命が相次ぎ、国交のないアメリカのメジャー・リーグへ流出。

 2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では2次ラウンドで敗退を喫するなどレベル低下も顕著で、かつてオリンピックで3度の金メダルを獲得した「国技」の選手確保は急務となっていた。日本での内閣に相当する閣僚評議会は、対策を協議。「スポーツの競争力を取り戻す」いう目的を掲げ、今年1月から国外でのプロ契約解禁に踏み切った。

▲セペダ、グリエル、デスパイネ(写真)らが今年はキューバからNPBへ加入。この流れは今後加速していくはずだ(写真=前島進)



 移籍第1号となったのは巨人へ入団したセペダで、契約金5000万円、年俸1億5000万円(金額は推定)。巨人は譲渡契約の際にキューバ野球連盟と、技術向上とコーチ研修等も含む人的交流を目的とした友好協定を締結した。

 同連盟のイヒーニョ・ベレス会長は「キューバと日本の野球にとって歴史的な一歩」とコメント。セペダは「日本野球を学び、母国に伝えることも私の任務だと思っている」と、両国の今後の交流も視野に見据え、パイオニアとしての意気込みを語った。

 今回の方針転換は、強力な戦力を補強できる日本だけではなく、キューバにも大きなメリットがある。

 キューバはプロ解禁に併せ、年俸の90パーセントが選手に入るように決めた。また、国際大会での獲得賞金の選手の取り分を、従来の15パーセントから80パーセントと改定。大幅な収入アップを国が保証することで、亡命への歯止めを掛けることができる仕組みを作った。

 また、日本の公式戦期間はキューバのオフシーズンとなるため、日本からの帰国後に国内リーグへの出場も可能。WBCやオリンピックの競技復帰した場合の代表チーム編成に支障はなく、“強いキューバ”の再興を図る体制が整った。古豪の復活は野球の世界的な普及につながり、日本野球機構(NPB)が国際試合を軸に展開しようとしている「侍ジャパン」事業への追い風となりそうだ。

 キューバ選手の獲得は今後、同国スポーツ省が交渉の窓口となる。日本の各球団が具体的な個人名をはじめ、ポジションやタイプなど希望を伝え、契約金などの条件を提示。話が折り合えば契約締結に進み、選手の入団となる。

 現地への調査員派遣を決定するなど、巨人、DeNA、ロッテ以外の球団も来年以降に向けて並々ならぬ興味を示している。潜在的に高い能力を持つキューバ選手の獲得は、これまで以上に活発になることが予想される。

 一方、社会主義という特殊な体制の国を相手とした獲得だけに、これまでとは異質のデリケートな事態に直面するケースも出てくるだろう。思ったような成績を挙げられない場合に「即解雇」というわけにはいかず、起用法についても気を遣わなければならない。新たなルートの確立に則し、これまでと違った対応も必要となりそうだ。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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