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第44回 好調な観客動員数――欠かすことのできない多様化への対応

 

 秋が到来し、ペナントレースも佳境となってきた。開幕前の予想どおり、セは巨人、パはソフトバンクを中心とした優勝争いが繰り広げられ、これからはクライマックスシリーズ(CS)進出の条件となる3位争いが過熱しそう。試合の盛り上がりも手伝って、両リーグともに観客動員数は順調だ。

 セ、パ両リーグの第3クール終了時点(8月21日まで)の数字を見ると、1試合平均では昨年の同時期との比較で、セが2万9087人の3.7%増となり、パが2万3269人の2.6%増。球団別の動員数の1位は、セが巨人の4万2343人(1.4%増)で、パはソフトバンクの3万4021人(1.9%増)。伸び率では、広島の23.2%増がトップ(2万5530人)で、パはオリックスの16.8%増(2万3370人)。12球団で最も減らしたのは、6.3%減(2万4471人)の日本ハムだった。

 セ、パで大きく動員数を伸ばした広島、オリックスの共通項は、女性のファンが増えたことだ。「カープ女子」に加え、「オリ姫」と呼ばれる20〜30代の女性ファンが出現してから久しいが、それ以外のチームでも女性ファンが増大。人気球団の巨人も、数年前から女性をターゲットにした戦略を重視している。桃井恒和球団会長が球団社長を務めていた2005年ごろから、女性に向けたマーケティングを本格的に展開。女性専用シートをはじめ、ピンクのユニフォームや、かわいいデザインのグッズなどを販売し、じわじわと女性ファンの取り込みに成功している。

 これまでとは違うファン層を、いかに開拓するかが今後のプロ野球界の課題だ。女性ファンの増加による観客動員の伸びは、その好例だろう。

 最近のファンは、以前と応援に対する考え方が違う。地元チームの選手を満遍なく支持する従来の発想ではなく、他地域のチームの選手を個別に応援。場合によってはカードごとにグッズを持ち替え、お気に入りの選手がいる複数チームの応援席に座る女性ファンも少なくないという。

 広島の人気No.1は、23歳になったばかりの堂林翔太だ。東京都出身のあるOLは、神宮球場や東京ドームで行われる広島戦に、赤い応援グッズで身を固めて頻繁に足を運ぶ。熱狂的な堂林ファンだという彼女は、声援を送る理由を「一流選手になる過程を一緒に歩みたいから」と説明。

▲堂林ら若手を目当てにマツダ広島に詰めかける女性ファン。身近に感じられる存在を見守りたいという感覚もある[写真=前島進]



 オリックスでは、若手の伊藤光安達了一海田智行の「イケメン三銃士」がグッズ売り場の“主役”となり、過去ベストナイン3度の糸井嘉男の人気を脅かすほどの支持を受けている。プロ選手としての数字が今は一線級と言えなくても、身近に感じられる存在を見守りたいという感覚で接している。まるで、アイドルのAKB48を応援しているファンのようだ。

 21世紀に入り、人の嗜好も多様化している。高いレベルのプレーを見せ、勝負としての結果を得ることがプロの一次的な目標ではある。だが、興行である以上、時代の流れは無視できない。ファンは選手に何を求めているのか。「ルックス」や「親しみやすさ」なのか。また「けなげさ」や「ひたむきさ」なのか。幅広く対応できるマーケティングが、これからの球界の必須課題となっている。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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