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第51回 沢村賞の基準改定を検討――権威ある賞も柔軟に変わるべきか

 

 2014年度の沢村賞に、オリックス金子千尋が選ばれた。決め手となったのは、パ・リーグ最多の16勝(5敗)と、12球団唯一の1点台(1.98)の防御率。パ勢としては4年連続の選出で、ここ10年ではセは4年前の前田健太(広島)の一人だけだ。もともと、沢村賞はセの投手のための賞で、パの投手も対象になったのは1989年から。元巨人堀内恒夫選考委員長は、「セ・リーグの投手は、もう少し気合を入れてほしい」とハッパを掛けた。

 沢村賞はプロ野球創成期に巨人のエースとして活躍した不世出の大投手・沢村栄治の名誉を称えて、47年に制定された。投手にとって最高の勲章であることにだれも異論はないだろう。対象は「先発完投型の本格派投手」で、受賞の条件として

1.15勝以上
2.奪三振150以上
3.完投10以上
4.防御率2.50以下
5.投球回200以上
6.登板25以上
7.勝率6割以上

と基準が定められている。だが現在、基準の見直しを検討している。

 金子は7項目のうち、191だった投球回とともに、完投が4と基準をクリアできなかった。今年に限れば、同投手に肩を並べる数字を挙げた者はいない。だが、先発完投型投手のための賞であることから、選考会では金子への授与に疑問の声も挙がったという。

▲今年の沢村賞に輝いたオリックス・金子。しかし、基準の7項目すべてをクリアしているわけではなかった[写真=佐藤真一]



 一部の委員は「『該当者なし』という選択肢もある」と発言。結局、堀内委員長以下、村田兆治平松政次工藤公康の3委員(北別府学委員は、所用のため欠席)を交えて審議し、金子が昨年は7項目のすべてをクリアしていること、該当者なしはできれば避けたい――などを理由に、金子の初の栄誉が決まった。

 キレのある直球と卓越したコントロールが持ち味の金子は、沢村の持つ豪腕速球派のイメージからはほど遠い。村田委員は2年前に攝津正(ソフトバンク)を選出したときにも、同賞への問題提起をしている。「沢村賞には、個人的には特別なものがあると思っている。別に、この選手がいいとかダメだとかいう意味ではない。投手にはほかにも最多勝とか防御率とか、それぞれの部門に別のタイトルがある」と語る。

 メジャー・リーグでの投手への最高峰の賞とされるサイ・ヤング賞は、先発完投型や本格派などに限定せず、対象を「その年の最高の投手」と定めている。場合によっては、リリーフエースで変化球を操る投手の受賞もあり得る。

 沢村賞がこれまでのように「先発完投型の本格派」というイメージにこだわるなら、今後も授与すべきかどうか悩むケースも多くなるだろう。また先発、中継ぎ、抑えという投手の分業化が進んでいるだけに、限られた条件を持つ候補者も探すのが難しくなる。堀内委員長は「クオリティースタート(6回3失点以内)を考えてもいい」と、基準の改定を示唆。10完投と近代野球では難しくなったハードルの見直しを提言している。

 時はとどまることなく流れている。柔軟に変わるべきなのか。それともかたくなに伝統を守るべきなのか。時代の中で支持を得ながら生きていくことは難しく、今年で67年目を迎えた権威ある賞といえどもそれは変わらない。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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