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第65回 統一球の基準を緩和――世界で評価が高い高品質を誇るボール

 

 プロ野球の公式戦で使用するボール、いわゆる統一球の反発係数の基準が、これまでの許容範囲の指定から目標値に変更された。日本野球機構(NPB)は2月3日、セ、パ両リーグのアグリーメントで「0.4034〜0.4234」と定めていた係数に関する規則を、新たに「0.4134を目標とする」と改定。係数の上下限の値を撤廃した。

 今回ルールが変更されたが、NPBではメーカー(ミズノ)からのボール納品前の日本車両検査協会での検査では、従来どおりの「0.4034〜0.4234」の規定を適用する。井原敦事務局長は、「納品前の検査で従来の範囲を外れたボールは不適格となるので、品質と安定供給は確保できると思っている」と、厳しい管理の続行を強調。1月27日には、さらに2016年から2年間、同仕様のミズノ社製を採用することを発表した。

▲現在はボール納品前に日本車両検査協会で、従来どおりの「0.4034〜0.4234」の規定でしっかりと検査されている[写真=BBM]



 統一球をめぐっては一昨年、NPBが秘密裏に飛びやすく仕様変更していた事実が発覚。当時の加藤良三コミッショナーが引責辞任する大騒動に発展した。さらに昨年4月、開幕直後の3球場で使用したボールが基準値を上回っていたことが判明。乾燥した毛糸を芯に巻き付けたことで通常よりも硬度が増し、反発力が上がったための混乱だった。

 メーカーをはじめ、関係者が口をそろえたのが「ボールはナマモノ。品質管理は難しい」という言葉だった。牛皮革や羊毛など自然素材はばらつきが出るのが当たり前で、温度や湿度などの変化に弱い。狭い数値内に収めるのは至難の業で、もともと基準値を定めるのには無理があった。「数字で自らを縛るから問題が起きる」という日本プロ野球選手会(嶋基宏会長=楽天)の後押しも手伝い、係数の要件緩和につながった。「飛び過ぎるボールを使っていては、国際試合のときに通用しない」として、2011年に厳しい規格の「飛ばない」統一球を導入。一連の経緯を見ると、とんだドタバタ劇だが、統一球自体には“罪”はない。同仕様のボールは、国際野球連盟(IBAF)の主催試合やキューバ・リーグの公認球になっている。高い品質を安定供給でき、コストの面でも優れた統一球は、日本以上に評価が高い。

 本場のメジャー・リーグでは現在、肩やヒジの故障が頻発。機構側では原因究明に乗り出しており、さまざまな角度から検証をしている。その中で「滑りやすい」と言われる米国製ボールも対象となっている。メジャーのボールを見れば分かるが、一つひとつが微妙にゆがんでいたり、肌触りが違っていたりする。それらが肩やヒジに負担をかける可能性がないとは言い切れない。ある関係者は、「メジャーでは日本の統一球を手に入れ、すでに研究している」と明かす。

 加藤前コミッショナーは在任中、自身の「夢」として「統一球をメジャー・リーグに売り込むこと」と語っている。メジャーで自国以外のボールを使用することはありえなく実現性は薄いが、優れたノウハウはさまざまな形で、必ず他者へ伝わる。

 日本はこれまで、「メジャーに追い付き追い越せ」でグラウンドのレベルアップを図ってきた。今度は、ボールの技術力をメジャーが追いかけるかもしれない。日米の熊崎勝彦、ロブ・マンフレッド両国の新コミッショナーはスピードアップとともに肩、ヒジなどの故障撲滅も話し合っている。どんどん対応策をぶつけ合えばいいし、それがグローバルな球界発展につながる。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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