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第72回 キューバ問題を考える――IBAFを交え、ガイドラインをまとめる必要性

 

 DeNAは4月2日、ユリエスキ・グリエルとの契約解除を発表した。当初は母国・キューバでの国内リーグ終了後の前月末に来日予定だったが、右太もも痛を理由に来日を延期。球団関係者がキューバ入りして診断書等の提示など説明を求めたが、グリエルは応じなかった。早期来日を拒否し、来日の時期を最後まで明示しなかったため、契約解除を通告した。

結局、来日せずに契約解除に至ったグリエル。キューバからの選手獲得に関して、なにがしかのガイドラインをまとめる必要がある[写真=BBM]



 DeNAの高田繁ゼネラルマネジャー(GM)は「すぐに試合に出てほしいというのではなく、日本で治療してほしいと伝えた。だが、聞き入れてもらえなかった」と、契約解除に至った経緯を説明。球団側は総額5億円とも言われている年俸は支払わず、違約金も派生しないという。

 グリエルの“わがまま”は、今回だけではない。開幕に遅れ、キューバ代表の一員として国際試合に出場する夏場の離脱はDeNA側が了承していたことだとはいえ、昨年もさまざまなトラブルを起こしている。「飛行機移動がイヤ」「練習を休ませてほしい」など、扱いにくい助っ人ではあった。

 キューバ政府は昨年、スポーツ選手の国外でのプロ契約を突然解禁。それを受けて5月からDeNA入りしたグリエルは、慣れない環境の中で「至宝」に恥じないポテンシャルの高さを見せ付けた。「世界最強集団」と称される選手獲得の恒常化を長年模索していた日本球界にとっては、願ってもなかった展開だったが、やはり主義・思想、環境の違いからくるズレは大きかった。

 契約には、義務の履行が生じる。金銭が絡むプロ契約ならなおさらのことだが、今回のケースは窓口になっているキューバ政府を含めたグリエル側に、その意識が希薄だったと言わざるを得ない。社会主義国としては画期的な方向転換であり、それは無理もないことだ。

 今回の事態を教訓として、日本球界は対策を練りたいところだが、なかなか簡単にはいきそうもない。日本野球機構(NPB)は現在、メジャー・リーグ機構(MLB)など各国・地域のプロ野球組織と選手獲得などに関する協定を結んでいる。だが、アマチュアに属しているキューバ野球連盟と、プロ機構との締結は難しい。ある球界関係者は「現行ルールでは、キューバ政府が国外契約を認めた選手と、海外球団との個別の契約になってしまう。それに日本球界全体として介入することはできない」と語る。

 とはいえ、何も手を打たないままでは、今後もさまざまなトラブルを招きかねない。キューバ側にしてみれば、スポーツ選手の海外での契約は外貨獲得のための重要な“国策”だろう。国交正常化交渉が行われているアメリカには、キューバパワーを手ぐすね引いて待っているMLBが控えている。キューバ野球を傘下に置く国際野球連盟(IBAF)を交え、なにがしかのガイドラインをまとめる必要がある。

 国際試合を軸とした事業を目論む日本代表「侍ジャパン」の成功のためにも、野球王国のキューバは大切なパートナーだ。選手交換を含め、円滑かつ良好な関係を構築しなければならない。プロとアマが手を携えながら、IBAFと太いパイプを持つ日本球界がリードし、にわかに起こった“キューバ問題”を考えるべきだろう。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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