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第75回 野球くじは是か非か――政治家の思惑に踊らされぬよう球界の主張もすべき

 

 超党派の国会議員でつくるスポーツ議員連盟は4月14日、スポーツ振興くじ(サッカーくじ、愛称toto)のプロジェクトチームの会合を開き、新たにプロ野球をくじの対象として検討することを決めた。5月中旬までに日本野球機構(NPB)や日本プロ野球選手会などと協議し、実現に向けて法改正を積極的に働きかけるという。

 スポーツ議員連盟は3月に2020年東京五輪・パラリンピック大会推進議員連盟(麻生太郎会長)と合同総会を開催。建設資材や人件費高騰で新国立競技場の改築費が当初の1692億円から膨らむとの問題が持ち上がり、資金源とするサッカーくじの対象を拡大する方針を打ち出していた。懸念される八百長問題について、遠藤利明座長らは「コンピューターが無作為に勝敗を選ぶなど防止のための方式を考えている」と説明した。

 同連盟は昨年、プロ野球を現在の12球団から16球団へ拡大するエクスパンションを提案し話題を呼んだ。だが、フランチャイズ制に欠かせない自治体への働きかけや、プロ野球の本元であるNPBへの協力要請など具体的なアクションは起こしていない。今回もプロ野球側への打診はなく、“本気度”は不透明なままだ。また、プロ野球界は、かつて選手が野球賭博に関わったとされる「黒い霧事件」へのしこりも拭い切れず、ギャンブルに対するアレルギーは大きい。実現までには、簡単にはクリアできないハードルがいくつも控えている。

新国立競技場の改築費が当初の予定より膨らむため、サッカーくじの対象を拡大する方針を打ち出した。野球界も是非論を戦わせる価値はある[写真=Getty Images]



 もし法的に整備され、実現に向けてのレールが敷かれたとすれば、プロ野球界のスタンスははっきりすべきだ。敗退行為などの防止策はもちろん、ペナルティを球界内外に明確に示す必要がある。それに対し、管理・運営する国側の責任も大きく問われる。

 野球くじは東京五輪のメーン会場の改築費捻出が目的ならば、それが目的達成までの「時限的」なものか、それともその後も続ける「恒久的」なものかを最初から決めるべきだ。恒久的なものならば、売り上げの細かい用途を国民、ファンに納得のいくように説明する義務が伴う。新たな独立行政法人など“天下りのための受け皿づくり”に利用されるようでは、まさしく本末転倒。各方面の関係者をはじめ、国民、ファンはしっかりとチェックする必要がある。

「スポーツ振興」という名の下に国が主導する財政的なサポート体制が確立すれば、プロ・アマ球界にとっても悪いことではない。ここ数年、学生側が元プロの指導者を受け入れるなど、プロとアマは急速に“雪解け”が進んでいる。NPBとアマ側の粘り強い話し合いによるたまものではあるが、さらに国が目に見える形で介在すれば、一本化のための力強い“柱”ができる。くじという側面的なものではあるが、プロ・アマによるサッカー界のような組織のピラミッド化に拍車を掛けるきっかけとなるかもしれない。

 ギャンブル的な野球くじはさまざまなリスクを伴うとはいえ、資金集めにはこれ以上にない有効な策だ。補助金という形で還元されるのならば、特に資金面で潤沢とは言えないアマ球界にとっても朗報だろう。スポーツ議員連盟が「NPB、選手会とも協議したい」と言うならば、政治家の思惑に踊らされぬよう、利害関係者として球界の主張もすべきだ。野球の普及・振興と底辺拡大のために、くじを導入していいのか、それとも害の部分が大きいのか。是非論を戦わせる価値はある。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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