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日本球界の未来を考える

第88回 野球振興とイメージ戦略

 

人気底上げに貢献している女性ファン、底辺拡大へさらに間口を広げたい


 オリックスの公式ホームページ特設サイト「Bsオリ姫」を開くと、女性たちの写真が目に飛び込む。球団応援ユニフォームをお洒落に着こなした女性のフォトギャラリーや、バッグ、アクセサリーなどのグッズ紹介、女性専門のイベント掲示─など、まるでファッション雑誌と見間違えるほど。ひと昔前のプロ野球の情報発信とはひと味違い、洗練されたものとなっている。

 オリックスの球団関係者によると、「プロ野球の世界にも『女性の時代』が到来した」と言う。「カープ女子」が登場して広島人気を支えるようになったと言われて久しいが、オリックスも負けてはいない。5月29日に本拠地・京セラドーム大阪で行われた広島との交流戦では、両チームの女性ファンのファッション対決などを打ち出したイベント「Bsオリ姫vsカープ女子」が盛況。ほかの球団も、女性をターゲットにした企画を重視するようになった。

近年、急増している女性ファン。さらに野球の底辺拡大につなげたい[写真=前島進]


 女性初のオーナーに就任したDeNAの南場智子氏は、野球振興について「子どもが大事。子どもの影響が大きいのは母親なので、女性を巻き込むことが必要」と強調。ある球団の調査によると近年、20代から30代の女性の野球ファンが増加している。ファッション感覚でプロ野球に親しむ女性は、まさに母親世代。本業の情報技術(IT)のノウハウを生かし、女性を“核”とした振興やファン獲得のための斬新な策に期待したい。

 近年、特に女性をターゲットにしたマーケティングに熱心に取り組んだのがパ・リーグ球団だ。経営難を発端とした2004年オフの球界再編から、営業サイドを中心にさまざまなアイデアを実行。観客動員数をはじめ、驚異的な発展を見せた。新規参入した楽天は、清潔なトイレを球場内に新設するなど、まずは女性客が球場に足を運びやすくなるよう知恵を絞った。パの仲野和男統括は「間違いなく、女性がプロ野球人気の底上げに貢献している」と断言。プロ野球普及のカギは、女性が握っていると言ってもいい。

 野球振興はプロ球界だけでは図れない。アマを含めた底辺の拡大が、球界全体の興隆につながる。最近、小中学校で野球部に入る子どもたちが減っているという。校内に野球ができるスペースがなく、プライベートでもキャッチボールをする場所が少なくなったことも影響。だが、子どもたちに野球が疎遠になったのは、いろいろな事情も絡んでいそうだ。

「丸刈りを強制されるのがイヤだから」──。ある子どもが、野球部ではなくサッカー部を選んだ理由の一つとして挙げた。一握りのエリートは気にしないことでも、どのスポーツをしようか迷う一般の子どもたちにとっては、決して些細なことではないということもあり得る。将来のエースとして素晴らしいポテンシャルを秘めている逸材が、古くさい慣習や根性論を嫌い、野球を敬遠する原因になっているとすれば悲しい。野球は甲子園やプロなどを目指す者や、それを取り巻く関係者だけのものではない。

 一時期「暗い」と揶揄された卓球は、台やウエアをカラフルに変えるなどして人気を取り戻し、競技人口を増やしている。趣味・嗜好が多様化してきた中、イメージ戦略は大事な要素だ。よりカジュアルに、どれだけ間口を広げられるかが、将来に向けた野球振興のポイントとなりそうだ。
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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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