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日本球界の未来を考える

第105回 バーネットのポスティングが示したもの

 

都合のいい思惑が入る余地のある日本独自のルール。日米で共通のシンプルなルール作りも必要となる


 ヤクルトは11月5日、トニー・バーネットがメジャー・リーグ(MLB)移籍を前提にポスティングシステムを利用すると日本野球機構(NPB)に申請した。過去に同システムを適用した外国人選手は、1999年に広島からレッズに移籍したアレファンドロ・ケサダらがいる。だが、それらはドミニカ共和国のアカデミー出身など以前にMLB傘下球団に所属した経験がなかった。米球界に復帰する外国人選手のポスティング利用は今回が初めてのケースとなった。

 バーネットは2006年のMLBドラフトで、ダイヤモンドバックスに10巡目で指名された。メジャー昇格はなかったが、10年にヤクルトに移籍してから才能が開花。来日後の6年間で、11勝19敗97セーブ、防御率3.58の成績をマーク。今シーズン、リーグ最多タイの41セーブを挙げ、14年ぶりのリーグ優勝に貢献した。

 今年限りでヤクルトとの契約が切れるバーネットには、複数の米球団が興味を示していた。連覇を目指すヤクルトは、日本の野球に適応したセーブ王は簡単に手放したくない。しかし、当人は日本でスキルを磨いたことで、かつてからの夢だったMLBでプレーしたいという気持ちを抑えられなくなった。

ポスティングを利用してMLB移籍を目指すバーネット。興味深い制度の使い方だ[写真=小山真司]



 契約満了のバーネットは現在、自由に他球団と交渉できる立場だ。制度を利用せずに、そのまま退団してもよかった。だが、2年前に改定されたポスティングは獲得の意思を示した米球団と自由に交渉が可能。実質的にはフリーエージェント(FA)と変わらず、デメリットはない。制度の利用については、会見で「球団には本当に感謝している。このままサヨナラを告げて出たくなかった」と発言している。ポスティングによる移籍が成立すれば、設定された50万ドル(約6000万円)の譲渡金が移籍した球団から旧所属球団のヤクルトに入る。ちょっとした“置きみやげ”といったところだ。

 美談ばかりが目立つが、実際は単純ではない。ポスティングの申請と同時に、ヤクルトはバーネットを来季の戦力として見なす保留選手扱いとする意向を示している。そのため、仮にMLB球団との交渉が不発に終わったとしたら、ヤクルトに残留する可能性が大きい。バーネットには、タフなメジャーとの交渉の“保険”となる。選手と球団の双方に少なからずメリットがあるのが実情だ。

 ポスティングは、FA権を持たない選手が米球界に移籍するための制度。選手の権利であるFAとは違って球団側が持つ権利だが、今回はバーネット側が制度の適用を球団に持ち掛けたと伝えられている。本来の主旨とは多少ずれているが、要件も手続き的にもルールに則している以上、非難されることではない。道義的にも問題なく、むしろ助っ人に対するヤクルトの処遇の良さが証明された形と言ってもいいだろう。

 しかし、ポスティングを介することで、獲得に食指を動かす国内の他11球団との争奪戦を未然に防ぐ効果が生まれるなど、制度の主旨とは違う運用ができるという事実を示したのは興味深い。ポスティングや権利行使の宣言をしなければならないFA権など日本独自のルールは、都合のいい思惑が入り込む余地がある。内外の選手交流は、より頻繁かつ複雑になってきた。野球のグローバル化を目指す今後は、日米で共通のシンプルなルール作りを話し合うことも必要となってくるだろう。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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