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Vol.27 古澤勝吾[九州国際大付高・内野手]
プレッシャーを楽しむ「三番・遊撃」の精神力

 

今夏、3年ぶりの福岡代表を目指す九州国際大付高は毎年、潜在能力の高い選手がそろう。強肩強打捕手の主将・清水優心と並ぶドラフト上位候補として注目を浴びているのが、攻守走3拍子そろった遊撃手・古澤勝吾である。親父のように慕ってきた若生正廣監督が今夏限りでの勇退が決まっており、発奮する材料は整っている。
取材・文=岡本朋祐 写真=筒井剛史

センバツ準V直後に異例のアポなし訪問

 野球で生きていく覚悟ができている。3年前の春。九州国際大付高はセンバツ甲子園で準優勝を遂げた。帰福して間もなく、同校の若松グラウンドに2人の訪問者があった。古澤勝吾と父・智規さん。アポなしで若生正廣監督の下へ直談判に来たのだ。14歳の少年は三好匠(現東北楽天)、高城俊人(現DeNA)を筆頭とした、攻守にアグレッシブなプレーに目を奪われたという。東北(宮城)時代を通じ、ダルビッシュ有(現レンジャーズ)ら幾多の一流選手をプロ球界へ輩出した手腕にも惹かれた。

「僕は九国で野球がやりたいです」

 過去に例のない入学志望者に、指揮官は驚きを隠せなかった。遠く滋賀県からの来訪。プレーを見たこともない。しかし、その熱意に折れた。その後、古澤は湖北ボーイズで実績を積み、日本代表では四番を担った。当然のように、地元の有力校からも勧誘があったが、心が変わることはない。古澤は意を決し、福岡へ来た。

 投手兼三塁手だった中学3年時は173センチ76キロと、古澤曰く「ポッチャリデブだった」という。若生監督からは事前に「遊撃手で使う」と告げられていた。三塁の動きのままでは通用しないと感じ、キレを出すために、ダイエットに着手。入学までに6キロ減量して九州国際大付高の門をたたいた。1年秋には定位置を奪取。2年春からは不動の三番打者として、プロ注目の強肩捕手である四番・清水優心とのクリーンアップを形成している。

「ショートはディフェンスのカナメ。守りもこだわりを持ってやっています。重圧は好きなタイプ。逆にプレッシャーを楽しんでいます」

▲高校通算20本塁打。ヘッドを利かせた打法は木製バットの方がむしろ、振りやすいという。三番打者として九州国際大付のポイントゲッターとなる



泣きながらの罰走が精神的強さの根源

 質問の受け答えは堂々としており、理路整然。体全体から自信がみなぎる。試合においては土壇場でこそ力を発揮するタイプ。強い精神力は、幼少時代に築き上げられたものだ。「小学校で相当、鍛えられたと思います」と、語るのは父・智規さんとの二人三脚による取り組み。野球経験は中学までしかないが、スパルタ式で古澤を教育した。下校後、父が仕事から戻るまでは走り込み。帰宅するとピッチング、ティー打撃と夜9時過ぎまでメニューが続く。

「試合で結果を残せないと、大変なことになるんです。試合会場から『走って帰れ!』と。泣きながらランニング……。記憶する限りでは10キロ以上はあったと思いますが途中、友達の車に乗せてもらい、命拾いしました(苦笑)。ただ、厳しいだけでなく、結果を出せばほめてくれる。アメとムチがあったから付いて来られたと思います。高校入学後も滋賀からわざわざ、試合を見に来てくれる。何とか、恩返ししたい気持ちが強い」

 九州国際大付高と言えば、豪快な攻撃野球がチームカラーだが、その裏付けには、年間を通して実践するトレーニングがある。ウオーミングアップは、1時間以上をかけてみっちり行う。そのほか、腹筋、背筋を毎日それぞれ1000回。力士のような股割りができないと、メンバー入りは許されない。古澤もウエート・トレーニングを日課としているが、メニュー後の柔軟体操を欠かさない。

「硬い筋肉は、使い物にならない。野球で使う部位の筋肉を意識して、また、バットを振り込むことで野球に直結する体を作っています」

 ベンチプレスは入学時に70キロだったのが140キロへ上昇。パワーだけでなく、スピードも進化。50メートル走は6.6秒から6秒フラットと、2年余りで急成長を遂げた。広い守備範囲に、遠投110メートルの強肩。そして、高校通算20本塁打のロングヒッターに、若生監督は「井口(資仁、現千葉ロッテ)とかぶるものがある」と、古澤の実力に太鼓判を押す。

プレースタイルは井口で、野球人としての資質は高井

 春季県大会で2回戦敗退(対直方高)した3月25日、予期せぬ知らせが入る。若生監督は3年生全部員を集めると、「今回の夏が最後。すべてをかけてやる」と退任を明言した。九州国際大付高は2011年夏を最後に、甲子園から遠ざかる。古澤は入学から4季、チャンスを逃してきた。

「昨秋(九州大会初戦敗退)と春に肌で味わった2つの悔しい思いをステップとして、夏は結果にこだわりたい。若生先生も最後。2度(東北高時代の03年夏)の準優勝を経験していますが、頂点には届いていない。僕らの代で実現させたいです」

 昨年来、若生監督と古澤は複数回にわたって、進路面談を行ってきた。大学進学を勧める指揮官の一方で、古澤は「プロに挑戦させてください」と、涙ながらに訴えてきたという。そして「絶対、監督に恩返しします」との固い決意に折れた若生監督は、プロ入りへ後押しする腹を決めている。

「精神的に強い。本当のプロになれる器だと思う。自分のためになるなら、すべてを惜しまないタイプ。見たままの野球小僧は、雄平(高井、現東京ヤクルト)を彷ふつとさせます」

 遊撃手で理想のプレーヤーは、中島裕之(現アスレチックスマイナー)だ。「目標であって、その上をいきたい」

 いかにも勝負師。17歳と思えない芯の強さが、卒業後も生きるだろう。「高卒野手で、プロの世界は甘くないことは分かっていますが、上を目指していきたい。1、2年は下(二軍)で鍛えてから、一軍で勝負する」

 将来のビジョンが明確なのは、今に始まったことではない。芯の強さが野球人・古澤の生きる道である。

▲遠投110メートルの強肩に、50メートル6秒0の俊足。俊敏なフットワークを生かした球際の強さも大きな武器である



PROFILE
ふるさわ・しょうご●1996年9月5日生まれ。滋賀県出身。178cm 80kg。右投右打。木之本小2年時から木之本球友クラブで投手兼三塁手として野球を始め、木之本中では湖北ボーイズに在籍(投手兼三塁手)し、全国大会出場。ボーイズ・日本代表として出場した世界大会では四番を務めた。九州国際大付高では1年秋から一番・遊撃のレギュラーとなり、2年春から三番定着。2年秋に県大会優勝、九州大会出場(2回戦敗退)が最高成績。高校通算20本塁打。
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