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逸材発掘!ドラフト候補リサーチ2016
田中和基[立大・外野手] 努力で這い上がった広角スラッガー

 

2016年の年明けとともに、スカウト戦線も本格化していく。“ドラフト解禁”を迎える候補選手にとっては勝負の1年が始まった。本誌ではプロを目指す逸材を発掘し、その横顔とプレースタイルを紹介する。第1回は血のにじむような取り組みで、15年秋に東京六大学で4本塁打を放ち、一流の域へと達した強打者だ。

狭い高校グラウンドが逆方向に飛距離が出る原点


 東京六大学リーグで通算6本塁打のうち、逆方向が4本。立大で神宮デビューした2年秋の2本塁打が、いずれも左翼越えと、田中和基の類たぐいまれなパンチ力に驚いた。しかし、決して“偶然の産物”ではなかった。

「高校が弱く、グラウンドは付属の中学校と共用で、水・木は使えなかったんです。ほかの平日は補講が夕方5時30分まであって、7時には完全下校ですから、ほとんど練習できません。全面が使えても実はライトは70メートルしかなく、練習試合ではいくら越えても『エンタイトルツーベース』(苦笑)。左打席で本塁打を打つには、レフトしかなかった」

 立大法学部に在籍する秀才は、野球強豪校とは無縁の環境でプレーしてきた。高取中では一度は硬式野球チームに入団するも「練習場が自宅から遠く、勉強に専念するため」と、同夏には退団。福岡有数の進学校・西南学院高では理系に在籍。だが、指定校推薦での立大進学を目指すため、3年時に文系へ。評定平均は5点満点で4.1と成績優秀だった。

「法政や明治と比べても、立教は指定校や一般入試の選手もベンチ入りでき、リーグ戦も出場しているので、自分にもチャンスがあると思った。実際、小・中・高ではクリーンアップが約束されており、まともな野球をしてきていない。立教へ行ってレギュラー争いをしたいと思いました」

 高校通算18本塁打。その内訳は左が8本、右が10本のスイッチヒッターだった。生まれつきは右利きも、俊足を生かすために小学校時代から左打ちに挑戦。松坂大輔(現ソフトバンク)が剣道に取り組んだことがきっかけで強肩になった事実を知ると、小学1年時からは6年間、道場に通った。こうした地道な努力が、体の強さと姿勢の良さの土壌にある。「右はホームランバッターの形、左はそうではないんです」と謙そんしながらも、数字が示すように左打席においても、非力さは一切見られなかった。ただ、大学では「右投手と対戦することが圧倒的に多い」と、左一本に専念。だが、プロを目指す最終学年を前にして、田中は「上でやるには武器になる。秋のリーグ戦が終わった翌日からは右も練習しています」と、両打ちに再挑戦している。

挫折を乗り越えた15年秋の4本塁打


15年秋は11三振も「嫌な形でしたわけではない」と、フルスイングした末の結果に後悔はない。同秋は明大1回戦でのアーチを含む計4本塁打を放った[写真=高野洋



 立大は部員150人を超える大所帯。D班から、リーグ戦ベンチ入りメンバーのA班にまで区分けされており、完全な実力社会だ。田中は四軍扱いのD班からスタート。実績を積み上げて2年夏、A班へ昇格。オープン戦でも結果を残し、2年秋に左翼のレギュラーを獲得した。デビュー3戦目の慶大1回戦で左越えアーチを放つと、東大2回戦でも流してフェンスオーバー。打率.302の好成績を残すも、データが丸裸にされた15年春は打率.214(0本塁打)と不振に陥る。田中は同夏、自らと向き合った。

「2年秋はビギナーズラック。逆方向の本塁打が多いのは、アウトコースが得意だから。打撃練習では苦手な内角を克服するため、ライトへ本塁打を打つ練習をしてきました」

 3年秋に成果が出る。明大1回戦で、柳裕也(4年・横浜)から左越え本塁打を放つと、同2回戦では通算4号にして初の右方向へスタンドイン。2戦連続アーチは北海道日本ハムドラフト1位左腕・上原健太(広陵)からと、価値ある一打。勢いは止まらず、法大1回戦ではバックスクリーン右へ推定135メートル弾。さらに、最終カードの東大1回戦では左腕・宮台康平(3年・湘南)から得意の左方向へ3ラン。慶大・谷田成吾(JX-ENEOS入社)、横尾俊建(北海道日本ハム6位入団)の5本塁打には及ばないながらも、4本塁打を量産した。規定打席には3打席不足しながらも、打率.353と「チームとして結果は出なかったが(4位)、個人としては次につながるものを残せた。16年春は首位打者を目指したい」と、ドラフトイヤーへ手応えをつかんでいる。

福岡の進学校・西南学院高から指定校推薦で立大進学。入学当初は四軍扱いの「D班」だったが、地道に実績を積み上げ、2年秋に一軍クラスの「A班」へ昇格[写真=井出秀人]



トップアスリートの数字を出す攻守走の3拍子


 チーム内には同じ左打ちの外野手・佐藤拓也(4年・浦和学院)がいる。東京六大学で現役最多74安打。同18勝の右腕・澤田圭佑主将(大阪桐蔭)と並ぶドラフト候補だ。佐藤は甲子園に3度出場し、高校ジャパン、大学日本代表も2年時からの常連。田中とは対照的に、エリート街道を歩んできたスター選手である。

「意識しないと言えばウソになります。彼はアベレージヒッターで、キレイな野球をするタイプ。自分は『汚いスイング』で泥臭い野球をしたい」

 広角にアーチを打てる要因には、潜在能力の高さがある。14年春から立大を指揮する溝口智成監督は言う。

「佐藤はコンスタントに結果を残してきましたが、パーツ、パーツでは田中が上。走らせても(50メートル走5.89秒)、投げても(遠投125メートル)、飛距離(背筋270キロ)でもチームトップクラス。16年はスイッチヒッターで勝負させようと思っていますが、面白いです」

 初めて神宮の打席に立った14年秋、早大・有原航平(現北海道日本ハム)、明大・山崎福也(現オリックス)、石田健大(現DeNA)と対戦する中で、当時の4年生から刺激を受けた。そして15年秋のドラフトでは立大・大城滉二(興南)がオリックス3位。身近な先輩がプロ入りし、田中は「プロを目指す」決意を固めた。16年春はさらにマークが厳しくなるだろうが、田中にはどんな困難も乗り越えるだけの頭脳がある。[文=岡本朋祐]

PROFILE
たなか・かずき●1994年8月8日生まれ。福岡県出身。180cm 78kg。右投両打。高取小3年時から原少年野球部で野球を始め主に投手。高取中では1年夏まで硬式の福岡ウイングス(フレッシュリーグ)に在籍。高取中では投手、捕手兼一塁手。西南学院高では1年夏からベンチ入り(背番号20)し、同秋から正捕手。3年夏は福岡大会3回戦敗退。立大では2年秋にベンチ入りし、同秋から外野のレギュラーを獲得し打率.302(12位)。3年秋は規定打席不足ながら打率.353、4本塁打、9打点。東京六大学リーグ通算34試合、打率.295、6本塁打、17打点。

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逸材発掘!ドラフト候補リサーチ

プロを目指す逸材を発掘し、その横顔とプレースタイルを紹介する読み物。

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