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第4回 柴田勲「盗塁は次の塁を奪うんだ、という意欲がすべて」

 

赤い手袋が強烈なインパクトを残した柴田勲氏。V9巨人の一番打者としてチームをけん引し続けた。プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー第4回。セ・リーグ最多の通算579盗塁を誇る男が、その野球人生を語り尽くした。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM

赤い手袋をトレードマークに走りまくり、セ最多記録の579盗塁を積み上げた


柴田氏は1944年の早生まれで、2月8日に70歳になったばかり。この世代は、プロ野球の歴史の中で、どのあたりから興味を持ち始め、どんな選手のファンだったのか、興味があった。小学校に入るのが、1950年。まだ日本は占領状態。中学に入るのが56年。あの西鉄野武士軍団が、日本シリーズ3連覇をスタートさせた年だ。これはなかなか面白い世代だ。

 私は小さいときからもちろん巨人ファン。まず川上さん(哲治氏)、青田さん(昇氏)のファンになった。それからハワイからやってきたエンディー宮本さん(敏雄氏、打点王2回)。100万ドルの笑顔ですか。私は大好きだったなあ。そのあとが長嶋さん(茂雄氏)です。もう中学3年生ですかね、長嶋さんが巨人に入ったときは(58年)。

 王さん(貞治氏)は、プロではなく、その前の高校時代(早稲田実高)からのあこがれの人でした。早実がセンバツで優勝した(57年)のは、何と言っても大きなインパクトでした。ノーワインドアップの王投手が甲子園で躍動するのを見て、私は痛切に「甲子園に行きたい!」と思ったのです。ああ、それとちょっと珍しい経験もあります。あのスタルヒンさん(通算303勝の大投手)を生で見ているんですよ。トンボ時代(55年)の。

予想どおり、歴史的なビッグネームがポンポン柴田氏の口から出てきた。これは、取材・構成者の世代にとってはうらやましい限り。小学3年のときに長嶋が登場し、そのまま長嶋ファンに。以後、この呪縛が強過ぎて長嶋以外目に入らなくなってしまった。3連覇西鉄は憎たらしいだけで、阪神の村山(実氏)に対してはしょせん長嶋の「打たれ役」ぐらいの認識しかなかった。阪神のほかの選手のことなど知ろうとも思わなかった。

団塊の世代のファンは、こういう片寄った、ある面不幸な見方しかできない人が多い。その上、巨人が65年から9連覇。テレビは巨人戦しかやらない。かくして巨人しか目に入らない世代が出来上がってしまった(関西、名古屋、広島、福岡の同世代は、もちろんもう少し違った意識でプロ野球を見ただろうが、それでも巨人に関する知識は、地元球団に関するそれと同じ、いや上回っていたはずだ)。

その巨人V9の斬り込み隊長が柴田氏だったのだから、プロ野球ファンとしても、プロ野球選手としても最高の人生を送った人なのである。


V9を達成できた最大要因は完璧な守り


61年巨人入団を決め後楽園球場を訪れた柴田氏。左は長嶋三塁手、右は別所投手コーチ


 私は62年に入団して63年に川上巨人の2度目の優勝を体験し、65年からV9を達成し、75年からは長嶋監督のもとでやって、75年には最下位も体験し、長嶋さんが辞任する80年までプレーした。藤田監督(元司氏)の1年目、コーチ兼任の81年で引退した。巨人の中で、川上、長嶋時代のほとんどをプレーした選手というのは、私のほかには王さんがいるだけです。これは、なかなかに得難い経験ですし、自慢できるものだと思います。

 V9とは何だったのか、を語ってほしいという要望ですが、もちろん、投打守走すべてにバランスが取れていたというのが前提条件としてあるのですが、私はその中でも、守りがV9を達成できた最大の要因だと考えています。とにかく、あのV9時代は、全員がしっかり守る野球に徹していましたね。

 よく、センターラインがしっかりしているチームがいいチームと言われますが、V9巨人はセンターラインだけでなく、レフトラインも、ライトラインもすべてしっかりしていました。だから他チームに比べ、守備面での大ミスというのが非常に少なかった。守りがしっかりしていれば、投手にも打者にもいい影響を与えるのです。

 次は、投打のバランスが良かったことでしょうね。俗に言う脇役たちが出塁して、かき回して、そこでONがドカン、と言われる野球ができたことです。まあこれは、手前ミソかもしれませんが、昭和41年(66年)に一番・柴田、二番・土井(正三氏)という打順になったことで、このパターンが確立されていくワケです。そこへ43年に高田(繁氏、現DeNAGM)が入ってきて、この3人が、川上さん(哲治巨人監督)のその時々の考えで、一、二、六、七番に入り、しかもソツなくこなせた。これが大きかったと思いますね。もちろん、ほかの打者の人たちも、自分の役割をしっかり果たしました。

 3つ目は、投手陣です。よく、V9時代は打高投低だったと言われますが、私はそうは思わないのです・・・

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“レジェンド”たちに聞け!

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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