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第8回 谷沢健一「昔は男と男の裸の勝負がありました」

 

プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー第8回は谷沢健一の登場だ。早大で強打を発揮した男は、プロの壁を乗り越え、首位打者を獲得。2000安打も成し遂げ、一流選手の仲間入りを果たした。そのプロ野球人生とは──。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM


早大同期は錚々たるメンバー。頭が高い早大野球はプロの障害に


谷沢健一という人には、取材・構成者は愛憎半ばする思いを抱いている。早大に入学した1969年春、早大野球部は、谷沢主将のもと大学球界最強を誇っていた。前年68年秋、田淵幸一山本浩二富田勝、山中正竹、江本孟紀らをそろえた戦後最強の大学チームと言われた法大を3年生が中心の早大が撃破、見事優勝した。これはもう69年の春秋連覇は確実。そうなれば51年春以来、早大史上2度目の3連覇となる。何しろこのメンバーから7人もプロ入りしているのだ。投手は小坂敏彦安田猛。捕手は阿野鉱二。内野手は荒川堯小田義人。外野手は谷沢、千藤三樹男。タイトルホルダーが2人(谷沢、安田)。ほかの選手もそれなりの結果を残したり話題を提供したりした。

が──。このチームが、春秋とも法大から勝ち点を奪っているのに、春は明大に足をすくわれ、秋はこともあろうに東大に勝ち点を奪われた最下位立大に1勝2敗と勝ち点を献上、勝率で法大が上回り、またもV逸。谷沢氏に会うたびにこの話を持ち出すので、ウンザリ顔をされるのだが、それを承知でまたむし返してみた。さらに、ここは大学野球を語る場ではないのだが、当時の大学野球のレベルの高さを知ってもらうために、早法の当時の選手の名を挙げてみたかったのだ。実際、68年のオール六大学なら、巨人以外のプロチームには勝てたのではなかろうか?


 そう言われてもねえ(笑)。野球というスポーツは、いい選手がいても勝てるとは限らないのですよ。それが勝負というものです。出身学校をアレコレ言うのもなんだけど、早稲田の野球部は閉鎖的なところがあってね。早稲田の野球は素晴らしい、それ以外知る必要なし、という独善的なところがあった。オープン戦も中大と同志社大としかやらないんだから。社会人なら日本鋼管、日軽金、大昭和。しかも、やりたいなら、そちらから来い、という感じだった。さらに部内では上下関係が厳しくて説教が延々と続く(笑)。

 大先輩たちにうかがうと、昭和の20年代はこんな説教などはなかったらしい。荒川博さん(元巨人コーチ)、広岡達朗さん(元ヤクルト西武監督)たちのころです。それがいつの間にか、早稲田がすべてのようになってきて、言ってみれば、われわれは頭が高い野球をやっていた(笑)。だから、プロ入りするとなかなか順応するのが難しかった。早稲田と六大学しか知らないんですから。

69年暮れ、中日入団発表での谷沢氏。のちに早大の“頭が高い野球”が障害に


率ではなくヒットの本数で、の旧友の言葉に「そうか」とうなずく


なるほど、当時の早大は、厳しい上下関係と根拠なきプライドを持たされ、息苦しかったのである。これでは、素直に野球に打ち込むのは難しかったに違いない。今後は、谷沢氏を責めるのはやめることにする。憎はこれくらいにして愛の方も書く。谷沢氏は、とにかくチャンスに強い人だった。ここという時に必ず打ってくれる。早大スタンドでの人気、信頼度は抜群だった。法大・山中投手との名勝負も素晴らしかった(これは山中氏も「谷沢との勝負は本当に楽しかった。いい打者だったねえ」と語っている)。

そんな谷沢氏がドラフト1位で中日入団。どんな打者になるか楽しみだったのだが、1年目は新人王となったが、打率は.251で物足りなかった。2年目は.260、3年目から4年連続2割9分台。谷沢ファンとしては「3割を打つまでいったい何年かかるんだい!」とイライラは頂点に達した。そして、7年目の76年、谷沢氏はようやく3割を打った。打っただけでなく、一気に首位打者!

しかも、巨人・張本勲外野手をわずか1毛差(正確に言えば、その下の6糸差)で大逆転。取材・構成者は、昔の神宮仲間と東京・新宿の飲み屋「どん底」で祝杯をあげた。まさにどん底からの大逆襲─。


 あのときはねえ、9月の声を聞いても張本さんと3分の差があったんですよ。残り試合は、もうそんなにない。そんな折・・・

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