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レジェンドに聞け!

第22回 江川卓「巨人での10年は、ほかでの15年」

 

自分のピッチング哲学について丁寧に語ってくれた江川氏


80年に及ぶプロ野球の歴史の中で「元祖・怪物」といえば江川卓氏だ。高校時代から剛球で相手をねじ伏せ、野球ファンを感嘆させるピッチングを披露してきた。プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー第22回。江川氏のピッチング論に迫る。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM

なぜセンバツで三振を取りまくった落差の大きいカーブを捨てたのか?


今回登場の江川卓氏は、巨人入団の経緯や、スピード伝説はイヤというほど語られてきたが、案外盲点になっているのがそのピッチング哲学の部分である(いや全体と言うべきだろう)。どういうボールをどういう考え方のもとに投じ、その結果、江川氏の中でどういう変化が生じ、野球人生のゴールまで歩んでいったのか、ここを取材・構成者は知りたかった

幸い、江川氏は、この問いに真摯に答えてくれた。自画自賛になるが、読み応えのあるページができたと思っている。

江川氏のピッチングは高校時代(作新学院高)から見ている。法大入学後は、記者席からじっくりウオッチングした。プロでも、かなり見ている。そういう取材・構成者が、どうにも解けないナゾとしていままで抱えてきたことが1つある。

それは「あのタテにスト〜ンと落ちる、三振を取るカーブはどこへ消えたのだ?」だった。江川氏は1973年のセンバツで、三振を取りまくり、60奪三振(4試合)のセンバツ新記録を達成した。これはいまだに破られない不滅の大記録だが、驚いたのは、そのスピードボールではなく、まるでフォークボールのようによく落ちるカーブだった。速球のあとにこれを投げられると、高校生たちのバットは空を切るだけだった。言ってみれば「かすりもしないカーブ」。ところが、このボール、法大に入学すると消えてしまったのだ。プロに入ってからも復活することはなかった――。

 それはこういうことなんです。たしかにあの落差の大きいカーブを高校時代は多投しました。高校野球というのは、一本勝負。負けたら終わりです。負けないためには、ムリをしてでもいい球を投げ続けてアウトを取らなくちゃいけない。それが、あのカーブの多投でした。とにかく1試合全力で投げなくちゃいけない。

 ところが、大学野球は勝ち点制です。先に2勝したチームが勝ち点を奪い、その多さで優勝が決まる。勝率はそのあとです。こういうシステムですと、強いチームと当たれば3連戦になる可能性が高い。だから初戦に先発すると3戦目のことを頭に入れながら投げなくてはいけない。

 つまり、余力をどれだけ残して勝つかという投球になります。そうすると、あのカーブを投げまくって全力投球したらとても持ちません。三振を取るカーブではなく、大きく落ちなくてもいいから丁寧にコントロールされたカーブで打たせて取る、こちらを選択せざるを得ませんでした。もったいない?それはシステムが違うんだから仕方がありません(苦笑)。

 もし、高校時代のカーブを投げまくっていたら、三振はもっと取ったでしょうけど、30勝ぐらいしかできなかったんじゃないですか(江川氏は東京六大学史上2位の47勝をマーク)。

 私は慶大戦で4連投もやっています。それはこのシステムに適応できたからだと思います。プロに入ってからも打たせて取るカーブしか投げませんでした。プロはファウルする技術があります。決め球のつもりで投げても三振が取れないわけです。

強い体が戻ってきた80年の力感あふれるフォーム。この年16勝で最多勝



登板前日、必ずその試合の仮想スコアを作って山倉捕手と検討した


79年6月2日の阪神戦(後楽園)が江川氏のプロ初マウンドとなった。3本のホームランを浴びて4対5で敗戦投手となったのだが、一時は「勝ち投手も」と思わせた投球も、7回にラインバックの右越え3ランで試合を引っくり返されてしまった(8回5失点)。江川投手の登板後の「今日は勉強になりました」のひと言が印象に残っている。

 あれはインハイのストレートです。ボールひとつぐらいストライクゾーンの上に外れていた球でした。それを上からうまくたたかれました。調子は悪くなかったので、アレ?という感じでしたが、あとでビデオを見たら、やはり外国人の力ですね。スタントンという外国人にもホームランされましたから、すぐに「江川の一発病」という表現をもらってしまいました(笑)。

 プロに入って一番感じたのは、高校、大学と違って簡単に三振が取れないことでした。先にも言いましたように、プロにはファウルという技術がありますから。でも、そこで、じゃあ、何とか三振を取るボールを、という考えにはなりませんでした。手が小さいこともあり、フォークやシュート、チェンジアップなども試してはみたのですが、使えるレベルにはならなかった。

 それより何より、私は「見逃してもストライク、振ってもストライク」という投球をベストと考えていましたから、相手次第という球を投げたくなかったんです。

 例えばフォークは振ってくれなければボール。言ってみれば・・・

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“レジェンド”たちに聞け!

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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