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第40回 小川亨「私の頃はまだ大投手が投げていた時代だった」

 

愛称は「モーやん」とユーモラスだったが、そのバッティング技術は卓越していた。とにかく空振り、三振をしない。バットに当てる技術は天下一品だった小川亨氏。プロ野球の歴史を彩り、その主役ともなった名選手の連続インタビュー。第40回は西本近鉄で貴重な役回りを演じた左の好打者の登場だ。
取材・構成=大内隆雄 写真=BBM



追い込まれた方がバットが素直に出て三振しない
審判との駆け引きも大事


これまで登場した打者の人たちは、バットを「振る」ことにかけては名人ばかり。しかし、プロフェッショナルの世界には「振らない」ことでファンを驚かせた打者もいる。その筆頭が今回の小川亨氏だろう。

1997年に、あのイチロー(現ヤンキース、当時はオリックス)に破られるまで、小川氏は、180打席連続無三振(75年)のパ・リーグ記録を持っていた(イチローは216まで数字を伸ばす)。ただ三振しないだけではない。この記録の間に、小川氏に投じられた787球中、空振りしたのはたったの2球!

いかに選球眼がよく、かつ、難球をファウルするテクニックに優れていたかが、よ〜く分かるのだ。小川氏には、開幕から101打席連続無三振という珍しい記録もある(81年)。これは102打席目にロッテ村田兆治投手のフォークを空振りしてストップさせられるのだが、この空振りまでの424球で、これが初の空振りというのだから恐れ入る。こんな“不思議な大記録”はいかにして可能になったのか?


 いや、これは簡単な話でね、私はバットを振ったら大体当たったんです(笑)。そういう答えじゃ困ってしまう? 私は、とにかく初球を打たない打者と言われましたが、打席でアレコレ考えるのが面倒くさいというタイプでして、早く勝手に投げ込んでくれ、と待っていました。で、ストライク取られて追い込まれるとね、かえって無心になれるんです。素直にバットが振れる。それで三振しない、というワケです。これには西本さん(幸雄近鉄監督)が「モーやん(小川氏の愛称)は、徳俵に足がかかってから打つやっちゃな」とあきれていましたけどね(笑)。

 それとボール、ストライクは球審が判断するのですから、球審との駆け引きも大事なんです。審判の方に聞くと、1試合判定すると10球ぐらいは「どっちだろうなあ」というのがあるそうです。その10球、片方のチームだから5球ですね、そこでこっちに不利な判定をされては、困りますから、こっちもしっかり見ているよ、というのをアピールしておくことが必要なんです。くさい球をストライクに取られて後を振り向いて「エーッ!? それはないでしょう」と言ったりするのは、かえって球審を怒らせてしまいます。私なんかは、バットでさりげなく「ここですよ」と指し示すことをやりました。こういうのを繰り返すと「小川はしっかり見とるな」と私の打席では真剣に判定してくれるようになります。

 たまに私も「外れとるやん」と言ったりすることがありますが、「お前は、どうせファーストストライク打たんやろ」なんて答えが返ってきたりしました(笑)。それだけ、球審が私の選球眼を気にしているワケです。こういうやり取りは、藤本さん(典征審判)と一番やりましたねえ。非常に優秀な方で・・・

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プロ野球80年の歴史を彩り、その主役ともなった名選手たちの連続インタビュー。

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