配球には、捕手の野球観と個性が如実に現れる。だから、その妙をあまりおおっぴらにしてしまうと、相手に自らのリードの傾向やクセを明かしてしまうことにもなる。それでも、今季からオリックスに加わったこの男の“胸のうち”を聞き出してみたい。そう思い、あるワンシーンにこだわってみた。そのやりとりの中に山崎勝己という野球人の“捕手としての生き様”が、垣間見える気がするのだ。 文=喜瀬雅則(産経新聞) 写真=大賀章好、BBM 2014年5月5日、
ロッテ6回戦(京セラドーム)。オリックスの先発マウンドには2年目の左腕・
松葉貴大がいた。今季の一軍初登板だった。
「松葉のファーストゲームだったでしょ? 今日良ければ次がある。そこで、僕がマスクをかぶらせてもらった。次の登板がなくなるのは本人にもダメ、僕にも悔いが残る。もう1回、松葉が一軍で投げられるピッチングをさせてやりたい。その思いで一生懸命やっただけですけどね」
3回無死三塁から、二番の
鈴木大地に右前適時打を許すも1失点でしのぐと、味方が4回に2点を奪って逆転。迎えた5回、ここを踏ん張れば勝利投手の権利をつかむことができる。オリックスの豊富な救援陣を考えれば、チームの勝利への流れをグッと引き寄せることができる。松葉にもチームにとっても実に大事な場面。ここが山崎の見せ場だった。
5回一死から、鈴木に再び中前打を許し、打席には
井口資仁。長打が出れば同点、本塁打なら逆転されてしまう。その力と技を持った主砲を打席に迎えた。走者を得点圏には進めたくないと考えると、ストレート中心の配球になり井口も的が絞りやすくなる。ならば、変化球か。それだと今度は鈴木に揺さぶられてしまう。難しい状況だ。
1球目、129キロのスライダーがボール。2球目、120キロのチェンジアップで空振りを奪ったが、続く3球目の120キロのチェンジアップが暴投となり、鈴木が二進。カウントは2ボール1ストライク。四球を避けたい場面でどうしてもストライクが取りたい。しかも、変化球でワイルドピッチの直後だ。投げる側の心理なら、長打を避けるための安全策として、外角ギリギリに何とかストライク。打者はストレートに狙い球を絞る場面だろう。
松葉にその場面を振り返ってもらった。
「ファームから僕が上がってきたとき、山崎さんと話したんです・・・
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