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力強いストレートで打者をねじ伏せる。決して華麗なスタイルではないが、そのボールは力強く、そして重い。2年間の悔しさを晴らすべく、25歳右腕が選択したチャレンジとは――。
文=吉見淳司、写真=桜井ひとし

ルーティンの意図


 野球選手であれば、誰でもいくつかのルーティンワークを持っているものだ。中日の剛腕リリーバー・田島慎二も、投球前にはお決まりの動作がある。

 例えば、捕手のサインをのぞき込む際には、上体を前屈させ、顔を前方に突き出す。打者に挑みかからんとするような迫力ある姿だが、田島はその理由をこう説明する。

「前にかがんでいるのは、もともと目が悪かったからです。最初は立って(サインを)見ていたんですけど、ちょっとでも近づけるように。今はコンタクトを入れているし、ちゃんと見えているんですが、クセになっちゃいました」

 それでは、投球直前に三塁方向に視線を向けるのはなぜか。

「去年に使っていたコンタクトがよくずれてしまっていたんですよ。それで、サード方向の球場のライトを見ていたんです。僕の中では、光を見て『まぶしい』となると焦点が合うんですよ。それもリズムになってきているし、一度落ち着いて、呼吸を整える意味もあります」

 こちらが期待していたようなドラマのある答えではなかったが、重い球質を武器に打者をねじ伏せる、田島の豪快な投球スタイルに通じるようにも思う。

 それなら、捕手のリードをのぞき込んでいる間、ボールを後ろ手にくるくると回し続け、サインが決まるとあらためて握り直すのは?

「ああ、あれは意図的にやっていますよ」

 どうやら、単なる決まりごと以上の意味がありそうだ。

「僕はクセが出やすいのか、ボールを決まったところで持って、また球種によって握り変えると、その球種ごとのリズムが一緒になったりするんです。だから見えない位置でボールをくるくると適当に回して、自分がどこを握っているか分からないようにしているんです。そして、サインが決まったら、そこから握る。球種のクセが出ないように、手の感覚をリセットしているんです」

 アマチュア時代から続けているという投手らしい工夫だ。

 すべてをリセットし、ゼロから正しい握りを探り当てる――それは今季の田島自身と、少なからず重なる部分があるのかもしれない。

2年間の暗闇


新たな自分の姿を確立する15年。過去2年間のうっ憤を晴らすつもりだ



 田島がプロの世界に足を踏み入れたのは2012年。中部大一高では甲子園出場はなく、東海学園大では愛知大学野球連盟に所属していたものの、一部リーグでプレーしたのは2年春の一季のみ。それでもドラフト3位の高評価を勝ち取ると、開幕から一軍入り。オールスター出場も果たすなど、56試合、5勝3敗30ホールド、防御率1.15と堂々たる成績を残した。

 しかし飛躍が期待された翌13年は50試合で5勝10敗12ホールド、防御率4.76と軒並み成績を落とした。

「1年目は何も考えずにただ投げていただけだったんですけど、2年目には・・・

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