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野球浪漫2015

ヤクルト・森岡良介「クビにしてくれたことによって生まれ変われた」

 



ヤクルトのベンチには欠かせない男がいる。誰よりも声を出し、オーバーリアクションでベンチを盛り上げている森岡良介、30歳。ヤクルトの元気印には、笑顔がよく似合う。だがそれは悩み、苦しみ、もがいたからこそ、輝いて見えるのだ。今もなお、試練とぶつかりながら決して下を向かない背番号10はその逆境を力に変え、笑顔に変え、野球人生を歩んでいる。
文=小林陽彦(共同通信社)

新たな仕事場での試行錯誤


 一投一打が勝敗を分ける、緊迫した接戦の終盤。マウンドにはチームで一番の剛速球と必殺の変化球を操るリリーフエース。そこが今の森岡良介の主戦場だ。

 6月7日のロッテ戦(神宮)は2点を追う展開のために五回からの登場となったが、無死一塁から大嶺祐太の高めのストレートを右前へはじき返し、チャンス拡大で逆転勝利につなげた。6月3日の楽天戦から犠飛を挟んで3打数連続安打。打率2割5分を残せば優秀と言われる代打で、その成功率は6月10日現在で3割5分を優に超えている。

「何とかいい場面で打ちたいと常々思っているし、そういうイメージをして練習している。とりあえず今は代打が役目なので、しっかりチームを勝たせるように準備をしている」

 出番は試合終盤が多くても、森岡の朝は早い。18時開始のホームゲームなら正午前に神宮球場横のクラブハウスに到着し、室内練習場へ向かう。他の若手がコーチを打撃投手にして打つ中、森岡はマシン相手にバッターボックスより2メートルほど前に出て、体感速度は150キロを超すだろう速球を黙々と芯で捉える作業を繰り返す。「後ろは球の速い投手が多いから。目のトレーニングも意識してやるようになったよ」。そう言って、両手の人さし指を顔の前で肩幅ほどに広げ、左右、上下と眼球を動かして見せる。

 不慣れな役割でも結果を残すため、相手チームの“代打の切り札”からもヒントを得ようと努めている。

「小笠原(道大、中日)さんとか小窪(哲也、広島)とか関本(賢太郎、阪神)さんとかの動きも見ているよ。あの人いまベンチいないわ、裏で準備しているなとか。何回から準備を始めるんだとか。練習前のティーとかも見ている。やっぱ準備だよ、代打は。準備しないと打てないもん。準備したって打てないんだから(笑)」

4月8日の中日戦[神宮]の8回裏二死二塁の場面に代打で登場。同点打を放ちその後の延長10回のサヨナラ勝ちを演出した(写真=川口洋邦)



光と影


 昨オフにはキャンプインまで炭水化物を摂取しない減量法を試した。どん欲にパフォーマンス向上に取り組む森岡は、前監督の小川淳司シニアディレクター(SD)が「野球に関して、吸収しようという姿勢がすごく強い」と評すほどだが、その礎は中日時代に味わった挫折にある。

 2002年、高知・明徳義塾高の主将として夏の甲子園優勝。決勝戦での本塁打など華々しい球歴をひっさげ、意中の中日からドラフト1巡目指名を受けて入団した。走攻守3拍子そろった「立浪2世」との評判通りに、1年目の8月6日には岩瀬仁紀の代打でプロ初出場。いきなり左越えに二塁打を放ってみせ、前途は洋々に思われた。

 しかし、翌年就任した落合博光監督体制では二塁・荒木雅博、遊撃・井端弘和の「アライバ」コンビが全試合に出場。そこから2人は6年連続でゴールデングラブ賞を獲得して球界一の二遊間としての地位を築くことになる。一向に一軍出場機会が増えなかった森岡は、あまりに高いカベの前に、気持ちの行き場が定まらなくなっていった。

「明日から二軍と言われても『そっか〜』というくらい。今思うと・・・

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