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9年目を迎える今季、背番号を27に変え、真の正捕手となるためのシーズンを送る。立ちはだかるのはベテラン捕手の石原慶幸。巧みなリード、投手陣からの信頼……その域にたどり着くには課題が山積されている。しかし、広島が真の強者となるためには會澤翼が扇の要に座り続ける必要がある。
文=前原淳(スポーツライター)、写真=川口洋邦、BBM

打てる捕手としての期待


 ギャップの狭間で戦っている。大きな期待に、結果が追いついていない。打撃ほどの信頼を守備で得られていない。「期待が大きかっただけに物足りない」。一方では、「まだ本来の力を出し切れていない。可能性はまだあるので、期待している」。そんな声が聞こえてきそうだ。6月を終え32勝37敗1分けの広島の戦績のことではない。今季、広島の正捕手としてマスクをかぶる會澤翼のことである。

「あらためて捕手というポジションの重さを感じています」

 今季、初めて開幕マスクをかぶり、6月末時点で石原慶幸の30試合を上回る39試合にマスクをかぶる。シーズン中盤からスタメンマスクを任される経験は昨季もあったが、開幕からペナントレースを戦うのは初めてだ。さらに今季は、黒田博樹の復帰などもありチームの前評判が高かった。2年連続Aクラス入りを果たした広島に求められるのは優勝の二文字。だが、開幕から苦戦を余儀なくされた。チャンスを与えられ、失敗が許されるポジションではない。批判の矛先は、若い會澤に向けられることもある。1勝、1敗の重みが背番号27の両肩に重くのしかかる。

 昨季は石原に次ぐ65試合でスタメンマスクをかぶった。今春には侍ジャパンに選出され、今夏行われるオールスター戦にはファン投票で初出場を果たす。今季、多くの球団が正捕手の世代交代を進める中、12球団でも順調なステップを踏んでいる若手捕手と言えるだろう。

 05年から13年まで長期間続いた石原と倉義和の二枚看板の時代に終止符を打った、待望の新星に自然と期待は高まる。さらに會澤が、球団も望む“打てる捕手”の資質を持ち合わせていることも、期待値を増幅させている。昨季球団史上4人目のシーズン2ケタ本塁打捕手となり、打率は.307をマーク。今季はケガ人が相次いだシーズン序盤に中軸を任される試合も増えた(五番4試合、六番1試合、七番5試合)。“打てる捕手”という期待感が、日本代表選出、球宴出場につながった。

長打力を持ち合わせた打撃は會澤の大きな武器。広島打線の破壊力を上げる存在



 プロ入りした07年から、ここまで打力でアピールしてきた。高卒1年目ながら二軍で打率.273を記録。1年のブランクを経た3年目には.337を残し、初の一軍昇格も勝ち取った。その後は一軍と二軍を行ったり来たり……。広島OB捕手からは「お前はとにかく打て。打てるようになれば、一軍でも使ってもらえる」と背中を押されたこともある。

 経験がモノを言うポジション。會澤自身、まずはバットでという思いが強かった。13年オフは筋力トレーニングを行いながらも、バットを握らない日を作らなかった。無休でバットを振り続け、14年の打撃成績につなげた。さらに今年1月には梵英心小窪哲也らとともにグアム自主トレ。体幹トレーニングを中心に、腰回り、足回りのサイズが2センチ太くなった。捕手としての未熟さを打力で補うための取り組みだった。

 そんな會澤にチャンスが巡ってきたのが昨季だった。チームは得点力不足に喘ぎ、正捕手・石原が負傷離脱。捕手陣の低調な打撃がチームの総合力低下につながっていた。野村謙二郎前監督から「プロテクターを外せば、打者として切り替えて打席に入れ」と助言され、「打者・會澤」は下位打線で貴重な得点源となり、意気を吹き返したチームの原動力になった。

 今季は6月終了時点で打率.264、3本塁打、17打点。打者・會澤は「今季は・・・

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