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巨人・吉川大幾 契機となった母の涙

 

2011年の中日入団当時、PL学園高の先輩で、ミスター・ドラゴンズと呼ばれた立浪和義氏の背番号3を託されるほど、将来を嘱望されていた。しかし、待っていたのは挫折、そして戦力外――。活躍の場を新天地・巨人に求め、吉川大幾は新たな姿を見せようとしている。
文=三浦正[スポーツライター]、写真=高塩隆、大泉謙也

日ごろの学習


 心拍数が次第に上がり、思わず足がすくむ。三塁の守備位置で「ふぅ〜」と大きく深呼吸すると、少し、緊張感が和らいでいくのを感じた。今季、昂ぶった気持ちを落ち着かせるために行う、吉川大幾にとって欠かせない“儀式”だ。7月29日のDeNA戦(京セラドーム)の7回一死一、三塁。直前に守備に入った吉川のもとに、高く弾んだゴロが飛んできた。「前に出る打球は、絶対に1点を与えてはいけない」と果敢にダッシュして打球をさばき、三塁走者の本塁生還を阻止した。

 この場面は打球の速さによっては併殺を狙うことも考えていた。頭の中でいろいろなことを想定し、その上で本塁送球を選択。さらに、三塁線のゴロで、送球は走者と捕手が重なって、投げられるコースはわずか。少しズレれば、ボールが走者に当たり、大きなミスにつながる危険もあった。「まったく考えないでプレーすることは違う」と事前に考えを整理したことが、この好プレーを生んだことは間違いない。長年、三塁を守った原辰徳監督の「見事だね。ああいう場面で、ああいうフィールディングができるのはプロだね」との賛辞が、すべてを語っている。

 もちろん、以前からこのように頭の中での準備はしてきたが、今季はその幅が確実に広がった。5月20日に一軍に昇格し、それ以降9月26日に抹消されるまで、高いレベルの中に身を置いていた。プロ入り後、ここまで長く一軍に帯同した経験はなく、この絶好の機会を生かさない手はない。途中出場が多く、ストレッチなど準備を始めるのは6回からで、それまではベンチから戦況をじっと見つめている。「流れを見るというか。(一つのプレーを見て)単純にすごいな、ではいけない。こういう選手はここまで考えてやっている、と気づかないと」と、貪欲に観察している。

 例えば、坂本勇人の守備。9月15日の広島戦(マツダ広島)の2回に、エルドレッドの高いバウンドの打球に対し、チャージをかけ、ハーフバウンドでさばいて刺した。ベンチで見ていた吉川は最初、足が速いとは言えない打者だけに、そこまで無理をして前に出なくてもいいのではないかと感じた。ただ、実際は全力疾走のエルドレッドにタイミングは微妙だった。待って、バウンドを合わせていれば、セーフだったかもしれない。その試合に至るまでのエルドレッドの走塁への高い意識を想定し、そして、走者がいない、先頭打者だったという点を頭に入れた上での攻撃的なチャージだと理解した。

「すごいプレーだなと思う。(チャージすると)エラーをする可能性が高い。全部が全部、前に出るのではない」と感じた。

 もちろん、守備だけではなく、走塁、攻撃に関しても同じ視点でグラウンドを見つめている。その日ごろの“学習”が、試合に出たときに生きていると言う。

「やっぱり、頭の回転が速い人はすごいなというか、野球では大事だと思う。そういうのを(事前に)考えていると、いざ、試合に入ったときに・・・

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