高校時代にスラッガーとして鳴らした男も、一軍の壁に挑んでは跳ね返される日々を繰り返し、もがき続けてきた。“ユーティリティー”に活路を求めながらも、必死に自慢のバッティングを磨き続けることは忘れなかった。そして、決して腐らなかった。迎えた11年目、遅い開花の時が、ようやく訪れようとしている。 写真=阿部卓功、BBM 雌伏の時を乗り越え、負けじ魂で迎えた11年目
ようやく、と表現しても差し支えないだろう。
ロッテの
細谷圭は11年目の今季、その力を一軍の檜舞台で発揮し始めている。
過去に積み重ねた安打数は、わずか56に過ぎなかった。それが今季の前半戦だけで、これまでの10年間を上回る67本のヒットを放った。群馬・太田市商高から高校生ドラフト4巡目指名で入団し、28歳で迎えた2016年シーズン。
「これだけ長く見てくれたロッテには感謝していますよ。クビになったらトライアウトを受けてでも、というのは考えていなかったから」 長い雌伏の時期を越えて、今、ようやく花を咲かせようとしている。
高校時代は通算46本塁打をマークしたスラッガーだった。昨季、イースタン・リーグの打点王を獲得したように、打撃能力にはキラリと光るものがある。それでも、この舞台にたどり着くまでの道のりは想像以上に長かった。13年、キャリアハイとなる84試合に出場したものの、限られた打席で結果を残すことができずに102打数22安打、打率は.216と低調な成績に終わってしまった。主力を押しのけて定位置を確保するまでには至らず、翌年、出場試合は45に減った。
そこで腐っていたら、それまでの選手で終わっていただろう。
「このままじゃダメ。一度、自分のプライドを崩して一からやり直そうと思った。何かを変えないといけないし、やるだけのことをやって、野球人として死にたかった」と、歯を食いしばった。どれほど二軍で打ちまくっても、一軍で結果を残すことができなければ、周囲は「やっぱりダメか」という目で自分を見る。一軍の壁にはね返され続けた細谷には、そのことが痛いほど分かる。
折れない心の支えとなったのは、
「打てるようになりたい。そういうふうに見ているヤツを全員、見返してやりたい。その一心だった」という負けじ魂だった。
技術的にも、向上の努力は怠らなかった。ボールに対してバットを上や下ではなく、後ろから出すイメージ。本人の言葉を借りれば、「前の振り幅を大きくする」ということに取り組んできた。バットを振り下ろしても、下から当てても、ボールにインパクトできるのは「点」にしかならない。そうではなく、ボールを「線」でとらえることで、確率を上げるという考え方だ。
ようやく、その打ち方をモノにしつつあるが、現状に満足することはない。
「この打ち方はあくまでも、自分が良い状態での理想。スイングとしてはできることもあるけど、相手がいる中でそれを出せるかどうかが大事」 対戦相手も変わるし、自分の状態もまた、日々変わる。打席の中で体重を乗せる右足のつま先をほんの少しだけ、投手のほうに向けて立つことがある。そうすることで「少しだけど、下半身で粘れる時間が長くなる」。常にベストパフォーマンスを出せるようにするために、細かい工夫をこらしてきた・・・
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