育成選手としてスタートしたプロ野球人生だった。1年目で支配下登録され、初勝利を挙げるも、2014年オフには再び育成に降格してしまう。2度の手術、先の見えないリハビリ生活。それでもあきらめなかった男は、一軍のマウンドに戻ってきた。
文=富田庸、写真=桜井ひとし、BBM

思いが詰まった始まりの涙

　支配下登録選手として契約更改に臨むのは、2013年オフ以来、2度目のことだった。16年11月13日。そこには、スーツ姿ですがすがしい表情をした宮川将がいた。

「去年の契約更改とは気分的にまったく違いましたね。一軍で1試合も投げられなかった15年から、今年は支配下に復帰して9試合投げることができた。堂々と(交渉に)臨むことができたと思います」

　7月14日からのオールスター休み前に、「休み明けから一軍練習に参加しろ」と球団から告げられた。直感的に「これが(支配下返り咲きの)ラストチャンスやな」と察した。支配下登録のリミットは7月31日だからだ。この機会を逃せば、16年は育成選手のまま終わる。

　一軍の首脳陣が見守る中、渾身のピッチングを披露する。すると練習後、梨田昌孝監督に呼ばれた。

　指揮官は厳しい表情のまま。しかし、掛けられた言葉は「一軍の戦力として戦ってもらう」。宮川にとっては待ち望んでいた一言だった。

「最初、監督さんの顔を見たときはダメなのかな……と思ったんですけど、次の瞬間にはいつものにこやかな監督さんに戻っていて(笑)。一安心しました。去年はキャッチボールすらままならなかった。不安の中、今年までずっとやってきた。(支配下は)目標にしてきたことなので」

　永遠とも思えるような時間が流れていた。12年のドラフト会議。左右の両輪として、ともに大体大を支えてきた松葉貴大がまず“外れ外れ”という巡り合わせながら、ドラフト1位でオリックスに指名される。会場は一気に祝福ムードに包まれ、胴上げなどセレモニーが続く。しかし宮川はその間、別室でじっと“その瞬間”を待っていた。だが――。70番目にヤクルトが大場達也(日立製作所)を指名したのを最後に、全球団が選択終了を決めた。

　静寂さが戻った会場に、あきらめ切れない男が1人いた。会議開始から3時間になろうとしていたが、依然、自分の名前は読み上げられないまま。

「本指名が終わったとき、一度は『ダメだ』と思いました」

　大きな瞳はすでに真っ赤に充血していた。

　だが、育成ドラフトの指名が始まると状況が急変する。楽天の育成1位として、宮川将の名が挙がったのだ・・・