1786日ぶりの勝利を挙げたのは、昨年9月24日のことだった。今季は5月に初登板を果たすと、ここまで2勝をマークしている。投げられない苦しみから解放された「背番号11」は、新たな気持ちで野球と向き合っている。 写真=小山真司、BBM 甲子園最速を更新しドラフトで5球団競合
あの日に見せた、彼の涙を覚えているだろうか。
10年前の夏、仙台育英高3年の
佐藤由規は、甲子園に伝説を残す“怪物”の一人となった。2007年8月15日、2回戦で激突した智弁学園高(奈良)戦の4回裏のことだった。1ボール2ストライクから投じたストレートは、うなりを上げるようにしてキャッチャーミットに収まった。スコアボードの表示は「155キロ」。当時の甲子園最速。甲子園のスタンド全体から「うぉー!」という歓声が沸き起こった。
由規自身は
「155キロが出たことより、球場の歓声に鳥肌が立った」と振り返る。この記録は13年、
安樂智大(済美高、現
楽天)に並ばれたが、今も破られていない。
ただし、「あの日の涙」とは、敗れた試合後に流したものではない。同年10月3日の高校生ドラフト会議当日のことだった。由規には楽天、
ヤクルト、横浜、
中日、
巨人と5球団の1位指名が集中する。同じく高校ビッグ3と呼ばれた大阪桐蔭高・
中田翔には
ソフトバンク、
日本ハム、
オリックス、
阪神の4球団、成田高・
唐川侑己には
広島、
ロッテの2球団。不正スカウト問題で上位指名権をはく奪された
西武を除く11球団の1位指名はこの3人に集中した。
クジ引きの末、由規との交渉権を獲得したのはヤクルトだった。意中と言われた楽天入りはならなかったが、指名後の記者会見では淡々とした様子で受け答えしていた由規。その表情が崩れたのは、「家族にどう報告したいですか」という質問を受けた直後のことだった。
「自分の野球を始めたきっかけが……」。その言葉と同時に、瞳からどっと涙があふれ出てきて止まらなくなった。それでも必死に言葉をつなぐ。
「兄の影響で野球を始めて、もともと野球が・・・
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