誰もがその走塁技術に一目を置く、千葉が誇るスピードスター。しかし、デビューイヤーの衝撃的な活躍から一転、ケガに悩まされ続けるプロ野球人生を送ってきた。それでも前を向く。ケガさえも糧にして、自らにまだ成長の余地が残されていると信じているから。 文=氏原英明(スポーツジャーナリスト)、写真=川口洋邦、BBM 鮮烈なデビューと度重なるケガとの戦い
キャリアハイに並ぶ26盗塁。最下位に低迷したチームにとって一筋の光だった。
荻野貴司。社会人からプロに入って8年目の32歳だ。今やチームでは中堅クラスに入るが、常に、周囲からの期待を受けながらも伸び悩んできた選手の1人だ。
「6月に2度目の(一軍登録)抹消をされたときに、今年はもう一軍に上がることはないなと思いました。そこで自分を見つめ直して、もう1回、イチから時間をかけて来年につながるようにしよう、と。(打撃では)下半身でタイミングを取ってタメを作るという1点だけを重点的に取り組みました」 それが8月1日に一軍から声が掛かると、3日にスタメン出場を果たしていきなり3安打猛打賞。8月は.299と3割近くの打率を残した。そして9月に入ると、さらに調子を上げる。打率.356、出塁率.380、10盗塁。8月の再登録からシーズン終了までに22盗塁を決め、あらためて自らの“脚の脅威”を見せつけた。
とはいえ、この結果に満足しているわけではない。
「後半戦の成績が良かったのは間違いないんですけど、前半戦の大事なところで結果が出ませんでしたから、いいシーズンだったとは僕には言えないです」 荻野がそう口にするのも無理はない。これまでのキャリアでフルシーズンを戦ったことがない男にしてみれば、一過性の活躍としか思えないからである。
相次ぐケガの繰り返しとその影響から不調に陥る──。この8年間は荻野にとって苦しいシーズンの連続だった。今年からケガを「ゼロ」にするという意味で背番号「0」からスタート。しかし、ケガして落ち、治れば一軍に呼ばれるというこれまでの循環は、彼に確固たるものをもたらさなかった。
「ケガをしてイチからやり直す。その繰り返しやったんで、技術が積み重なっていかなかったんです」 体に疲れが出るまでは高いパフォーマンスを見せるが、試合を重ねていくうちにボロが出てくる。
「下半身に粘りがなくなって手打ちになってしまう。すぐにボールを追いかけてしまう」 一軍でやっていくだけの技量も自信も、荻野は作り上げてくることができなかった。それが彼の成績が向上しなかった要因だ。
そもそものつまずきはルーキーイヤーの2010年・・・
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